100均で鋳物のスキレットを買った。200円と300円の二種類があって、サイズは小さいが厚みも重みもある本物の鋳物だ。商品開発担当の意気込みが目に見えるような戦略的商品である。さっそく使ってみた。
まず、シーズニング(※)したスキレットに油をひき、ジャガイモを薄く切って敷き詰め、火にかける。ジャガイモが香ばしく焼けてきたらひっくり返し、両面に焼き目がついた頃合いに溶き卵を流し込む。溶き卵には塩コショウのほか、粉チーズ、ベーコンやほうれん草、きのこ類など、好きなものを入れるとなおいい。そして卵の縁が焼けてきたら、魚焼きグリルに入れて上面を焼く。するとまもなく卵がスフレ状に盛り上がっていき、あたりに直火焼きの卵のどこか懐かしいような匂いが漂い始める。好きなだけ焦げ目をつけたらテーブルに運ぶのである。
魚焼きグリルはスキレットと相性がいい。柄ごとすっぽり入るし、小さなスキレット一個のためにオーブンを温めるのもおおげさだ。しかも電気オーブンの遠回りな熱ではなく直火なので、スフレ部分が見事に立ち上がり、しぼみも少ない。また、表面のこげも一段と風味よく仕上がる。
検索すると、100均スキレットはとうの昔に話題になっていた。おすすめメニューはアヒージョのようだ。ニンニクやマッシュルーム、ベーコンやエビなどの風味を溶かし込んだ油にパンを浸して食べる。素材の風味を生かした料理が好きな日本人なら、好きにならずにいられない。うまいに決まってるが、なかなか手頃なサイズの鍋がなくてできなかったメニューだ。
スキレットの難点は、火床を占領してしまうので人数の多い家庭には向いてないところだが、逆に晩婚化や非婚化、高齢化などで増えてきた単身世帯、老夫婦世帯などにはぴったりだ。これらの世帯はどうしても出来合い惣菜や冷凍半製品のメニューが増えてしまうが、スキレットなら生の素材がどんどん使える。とりわけテフロンでは水分が出て煮物になってしまう食材が、香ばしい焼き色のついた、バーベキュー的な仕上がりになる。
ここまで安くなった鋳物のスキレットは、さらに普及するだろう。そして新しいレシピや利用法が生み出され、ネットならではのスピードで共有化され、日本人の食生活をちょっとだけ変えてくれるかもしれない。
※シーズニング
新品の鉄製鍋を使う前の作業。食器洗剤で金属油などを洗い流した後、鍋を強火かけて、食用油を注いで煙が出るくらいに焼く。揚げ物をしてもいい。鉄製鍋は錆びさせないように気をつけ、使い終わるごとに熱して油で拭いてやると、テフロンなみに焦げ付かなくなる。また多少錆びても、錆を磨いてシーズニングし直せば何度でも蘇る。