プロデューサーズ

「プロデューサーズ」はミュージカル映画の最高峰だと思う.監督のメル・ブルックスが,アメリカのエンターテインメント4大タイトル(テレビ番組のエミー賞,音楽のグラミー賞,映画のオスカー,ミュージカルのトニー賞)すべてを獲得したから,というだけではない.口に出すことがはばかられるような偏見や差別,不謹慎と言われるものを立て続けに見せ,しかも上質な,ミュージカルへの愛に満ちた作品に仕上げているからだ.

アメリカ人は男らしさを尊ぶ.海兵隊や保安官は男らしさの象徴だが,反対に会計士は男がやる仕事ではないと思われているフシがある.もちろん偏見なのだが.主人公はその会計事務所の社員で,退屈な毎日にイヤ気がさし,ブロードウェイミュージカルのプロデューサーを目指す.とは言え才能があるわけではなく,ただプロデューサーになって仕立ての良い服を着て,高級レストランでランチをとり,美女に取り囲まれていたいというだけの,善良で素朴だが最低の素人だ.
もうひとりの主人公は,売れないミュージカル・プロデューサーで,金集めのために,年老いた未亡人をたらしてまわるような男.この二人が,制作資金を集めてわざと失敗作品を作り,配当しないで投資した金を着服しようと考える.そのために選んだのが,「春の日のヒトラー」というナチ礼賛の脚本.主役のヒトラーは,これまた男らしさの正反対,ゲイの俳優だ.


ヒトラーとドイツに春の日を
さあ、優性民族がやってくるぞ
ラインラントは再び栄光を取り戻す
見よ、ヨーロッパよ
ヒトラーとドイツに春の日を
ポーランドとフランスに冬を
もし戦争を望むなら、さあ第二次大戦だ
(歌詞部分訳)

ここに書いて大丈夫かと思うような歌詞だ.よく見ると動画のタイトルも「htler」と,微妙に本名を避けている.映画の劇中ミュージカルは,学芸会に毛の生えた程度の小劇場で,美術もやっつけ仕事.ソーセージやプレッツエルなどのドイツを象徴する小物や,半裸の美女などが,出しておけばいいやとばかり雑に散りばめられている.どうせ逃げるのだから,はじめから金をかける気がないのが見え見えだ.その中でのナチ礼賛を歌い上げるのである.映画として見ている自分も,笑いながらも少々息苦しくなるような不謹慎さだ.

それがヒトラーの登場で一変する.それまで不快さに耐えてきた観客が,ヒトラーの女っぽいしぐさに大爆笑する.身についてしまったオカマっぽい仕草が,まるでヒトラーを笑い者にするための渾身の演技のように見え,観客は大喝采となる。意に反してミュージカルは大成功.詐欺の方もバレて留置所に入れられる.が,この成功のお陰で結局名プロデューサーとして,名声を得てハッピーエンドとなる.金儲け目的の悪巧みだろうと,制作者に問題があろうと,ミュージカルは面白ければいい.そんなメッセージが聞こえてきそうだ.

見どころは,昔ながらのステッキとシルクハットでのタップや,ラインダンスである.昔のミュージカルなら当然だが,この作品が最初に上映された1968年には,すでにショービジネスでのこういった芸は廃れていて,シリアスなテーマやリアルなストーリーの中に,歌や踊りを組み込んだ作品が主流となっていた.却ってそのせいで,突然歌い踊りだす違和感が増してしまったのだが.
それをこの作品では,ブロードウェイのプロデューサーの話ということで,自然にシルクハットやステッキを登場させてみせたのである.いわば歌舞伎役者が主人公の映画を作り,劇中の歌舞伎の舞台をたっぷり見せて,昔ながらの魅力を再確認させたようなものだ.

製作,脚本,作詞・作曲は,メル・ブルックス.他の作品のように,主演まではしていないが,ちょっとだけ登場するシーンがある.

次回「恐怖のメロディ」(11/8公開予定)
乞うご期待!

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