六月四日

昨日の後日談。

天安門事件の直後、日本での留学を終え無事帰国した中国人留学生から一通の手紙(当時はインターネットがなかった)が届いた。我が家では家族会議を開いて、万一中国を脱出して来た場合はかばってやろうと話し合った矢先だったので、緊張しながら封を切ったが、パソコンが壊れたので部品を送ってほしいというものだった。

当時中国には国産パソコンがなく、あるのはIBM製の輸入品だけで、それも日本の何倍もの値段がした。研究者としてぜひ欲しいものだったが、日本人でも二の足を踏むような値段で、とても手が届かなかった。日本の電気店で、適正価格でパソコンを買うのも留学の目的の一つであり、しかも折悪しく帰国の時期は東芝COCOM事件の直後で、電子機器が持ち出し禁止になったのを、天下の〇〇運輸が1日だけ前に受け取っていたことにしてくれて、なんとか持ち帰れた品である。それを帰国してすぐに、電圧の違う中国のコンセントに差し込んでしまったのだという。

そういえば彼は、過酷な選抜試験を上位で突破した秀才である一方、ちょっとおっちょこちょいでもあった。拍子抜けしたが、大事でなかったので安心した。どうやら天安門事件については全く知らされていないらしく、彼にとっては壊れたパソコンが天下の一大事だった。大学にいるだけあって、工学系の学生などが集まって修理したのだが、どうしても一個のコンデンサだけ代用品がなかったらしい。

私は、付き合いのある事務機器会社やIT関連会社(当時はそういう言い方してたかどうかは忘れた)に、事情を話した。天安門事件にからめて、多少脚色したのはご愛嬌である。基盤ごと修理するのが一般的で、部品一つだけ調達するのはかえって面倒だったらしいが、数日して、そのすべてから問題の部品が送られてきた。しかも異口同音に「金はいらない」と言ってきた。政治、経済、文化云々を別にしても、私は、つくづく日本は良い国だと思った。

2 thoughts on “六月四日

  • 6月 7, 2021 at 18:20
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    中国の人民と党の思惑とは、かなりかけ離れているんですね。それにしても広い国ですから天安門事件もほんの一部地域の事件だったのでしょうか。中国全土を巻き込んだように我々は考えてしまいますが、現地の人でなければ分からないですね。あの最中にPCの部品調達を頼んで来るなんて驚きと安堵ですね。

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    • 6月 7, 2021 at 19:33
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      一般の人はほとんど知らされてなかったでしょうね。ネット時代だというのに、今の若い人はもっと知らないのだとか。

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