昔,名寄市天文台の佐野康男技師に取材した際のお話.当時氏は日本でただ一人,2個の超新星の発見者だった.(※1)
誰かが天体観測をしようと思ったら,まず天体望遠鏡を買わなくてはならない.これはもちろん高価なものだが,個人で買える範囲のものでもあるらしい.それを,しっかりしたコンクリート製の土台に固定し,屋根と壁で囲んで観測所を作る.実際に拝見したものは人の背丈よりやや低いくらいの,ナントカ物置のようなもので,普通の民家の一角に据えてあった.
そうして準備が整ったら,次に星の座標を記したマップを作る.そんな情報はどこかにありそうなものだが,それらはあくまで他の天文台の位置から見たもの.新しい天体を発見するには,既に知られている星が,自分の観測所からみてどれにあたるのか,すべて調べつくさなければならない.その作業にまず10年かかる.その準備ができた人が,国際的な天文ネットワークに発見を発表できるのだ.
そのネットワークの頂点に立つのがアメリカ国立天文台(NOAO)だ.こういう巨大な天文台があるのに,個人の観測者が大きな発見ができるのは,大きくて拡大率の高い望遠鏡ほど夜空の狭い範囲を見ていることになるため.全天を見張るには,世界中の個人観測者が不可欠なのだ.
また,天体観測に必要な望遠鏡は,素人目には案外小さいもののように思えた.が、現在の天体観測は望遠鏡の大きさではなく,撮影したデータの画像処理能力を競うものだという.そのためのソフトは観測者がプログラムし,その精度が大発見の決め手になる.
観測者の活動も,優雅に星空を眺めるというには程遠い忙しさだ.夜間に観測しなければならないのは勿論だが、日中は世界中の観測者からのデータがパソコンに送られて来て、絶えず目を通さなければならない.一体いつ寝るのか,証券ディーラーかと思うほどの慌ただしさが,天体観測者の日常らしい.
しかも星空も決して穏やかな世界ではない.シューメーカー彗星(確かそう言ったと思う)が接近した時は,普段は絶え間なく情報を発信するアメリカ国立天文台が,通過するまでずっと沈黙していたという.ぶつかると思っていたのか,やっぱり大統領が箝口令をしいたのか.映画さながらのダイナミックでスリリングな話題に,すっかり度肝を抜かれたのを思い出す.
さて,宇宙的スペクタクルの最後は,しっとりとあの曲で.
次回「携帯電話」(11/16公開予定)
乞うご期待!
※1
超新星2個の発見が日本人で唯一というのは、当時の話である.その後,さまざまな発見があったと思うし,佐野氏自身も,もうひとつ発見して認定待ちで,しかもこれまでにないタイプの可能性があると言っていた.今回天文関係のサイトで確認したところ,3個目は無事認定されており,しかも「核がむきだしになった」,初めての超新星ということである.