久しぶりに寸借詐欺に出くわした。実は同じ人間に、一月ほど前にも声をかけられていた。近くのコンビニの前で30歳をちょっと越えたくらいの、色の浅黒い頭の悪そうな女で、必ず返すので、金を貸してほしいという。こういうのは久しぶりだなあと思いながら、交番に行くように言った。すると妙に食い下がってきて、警察には行けないのだという。警察に行けないようなやつに、金は渡せない。まだごちゃごちゃ言ってたが、さっさとその場を離れた。
それが、先日同じ場所でまた声をかけてきたのである。詐欺にせよ物乞いにせよ、人の顔色を見てナンボの商売で、前に声をかけた相手を忘れているとは、なにかおかしい。
「前にも見たよ」
と言って、その場を立ち去ると、後ろで「え、前に?」とつぶやいてるのが聞こえたが、私が遠ざかったあたりで、いきなり大声で何かをわめき始めた。そんな調子で終始人目もはばからない様子がますます奇妙だったが、ふと「覚醒剤かな」と思いついて、腑に落ちた。
昔は、と言うと我ながら年寄り臭くて嫌なのだが、昔は寸借詐欺や乞食の類がたくさんいた。実家の寺では来客があるとまず出ていくのは腰の軽い我々子どもたちだったが、何回かに一度は招かれざる客が来た。そして父親が出てきて、あしらうのをみていたわけだが、乞食にせよ寸借にせよ、ちょっとした「お約束」があったように思う。基本的にこちらが何か言ったら、すべてごもっともで、口ごたえなどもってのほか。説教のひとつも聞かされるだろうが、説教代くらいにありつけるというものだ。それだからこそ、身なりもしっかりした若い者が、ぐだぐだ屁理屈を言いながら寸借をしようとすると、頭ごなしにどなりつけていた。
ちなみに乞食や詐欺にも、子供連れという核武装並の破壊力のがいて、こうなるとお手上げだった。これはお前じゃない、子供に何か食べさせておやりと、決まり文句で何がしか包んでやるしかなかった。
誰もが貧しく、わずかのものさえタダでくれてやるものかと思ってる中で、断腸の思いで、なにがしかを出してしまう。昔の人情は甘っちょろいものではなく、そんなギリギリのものだったように思う。
今では,貴金属買取業者が巧妙な手口を使いますね。友人宅に行った時「今から古着を買い取ってくれる業者が訪問してくるから」と,言うのです。なかなか現れません。聞くと,優しい女性の声で「担当者がお近くを回っているので直ぐ伺います」と言ったらしいのです。そこで友人が電話をくれた女性に問い合わせしました「いつ来られるんですか?」のい問いに「今違う方面に向かったのでしばらくお待ち管さう」と。つまりいつ現れあるかもわからない様子。そこで僕はピンときて「今すぐ断りなさい!」とまた電話で断らせました。この手は古着が目的ではないのです。玄関の扉を警戒せずに開かせるための手口で,あちこちに連絡係の女性の声で安心させるのです。現れるのは当然一癖ある男が,最初は猫なで声で入り込み一応きっかけの古着を安い金額提示で,がっかりさせてからが本題の勝負で,鑑定だけでもと貴金属を出させて奪い取るように買い取る悪徳商法なんですね。無知な人は古着が片付くと歓迎するわけです。うまい話には必ず裏がありますね。詐欺商法には注意したいですね。
詐欺の話は尽きませんね。リフォーム業者の中には、風呂場でビー玉を転がして、「これは床が傾いてますね」と言うのがいるそうです。風呂場の床は排水のために初めから傾いているのですが。
ならず者のディレクターが居ました。と,言うのも僕よりも先に採用されていたので,僕は責任者で採用されたものの人事権を発揮できずにスタッフや機材が既に揃えられてしまっていたのです。そんな彼は新規の大スポンサーを獲得するための大切なプレゼンの最中でした。このプレゼンに落ちれば,僕の立場も不要になるのです。彼の思い通りに動かせていたのですが,突然に「10万円を貸してください。所長にしか頼める人がいません」と。当時まで別会社を立ち上げていた僕は多少の会社の通帳預金があったので一時的に貸すことにしました。いつまでたっても返済の素振りはありません。そのうち風のうわさで彼は親しい取引先のあちこちから10万円ずつ借金をしている常習犯と知りました。彼を辞めさせる立場になった時,彼に手紙で返済を促しました。面と向かって言えば彼のプライドを傷つけると思ったからです。彼は不思議と僕の想像とは反対に素直に口座に返済したのです。僕は彼に餞別としてポケットマネーからのし袋に1万円を包み送り出しました。ならず者の目にも涙が見えました。
寸借詐欺の経験から,少しは利口になった僕ですが,自宅にも出入りして麻雀などもして遊んだ親しい友人のカメラマンが自宅のカミさんを訪ねて「30万円貸してほしいんだけど」と。カミさんは僕の会社に電話で事情を説明。「貸していいのかどうか?」と聞くので。「あげるつもりで貸しなさい。ただし本人のためだから,タイプライターで返済期限を入れて借用書を作ってハンコか指紋を貰いなさい」と。最終的には数か月後に催促して嫌々返済したものの,考えるに彼はまた消費者金融あたりで借りて返したのではないか?と心配になりました。技量以上な機材を無理して揃えるからですね。ハッセルなんて十年早いんです。カタログ用撮影ロケに同行しても僕の35mm一眼レフ2台で撮った写真の方が使えるんですから。
寸借詐欺と言っても,被害に遭われたわけでは無いのですね。僕は以前に知り合いに千円だの二千円だのと貸して,返してくれない事はありますよ。手口は貧乏を装って立ち喰い蕎麦を食べたり,喫茶店では何時も誘っておきながら財布を忘れた振りをして払わせたり、食事も誘われて行くと「ご馳走様!」と言ってとんずらしたり。地下街で出くわすと「今、書店で欲しい本を見つけたんだけど,持ち合わせが無いので二千円貸して」とか。ところが,或る日知ったのですが,彼は土地も買っていて,アパートも経営していたのです。
知能指数が高い人ほど、人を信用するというデータもあるようです。知人からでは、断りきれませんよね。オレオレ詐欺などでは、騙されるほうも気をつけろという風潮ですが、この人の名前を出されたら、一切疑わずに何としてでも助けたくなる。そういう相手のいる人のほうが幸福だと思います。