1971年公開,クリント・イーストウッドが初めて監督した映画である.主演も本人.
イーストウッドと言えば,それまでマカロニ・ウェスタンやダーティ・ハリーで,無表情でぶっ放すキャラクターばかり演じていたので,当然そういうのを期待して見に行った.そしてタイトル通りの恐怖に縮み上がった.
原題は「Play Misty for me」(ミスティをかけて).ラジオのDJを務めるイーストウッドは,毎回ミスティをリクエストしてくる,熱心な中年女性ファンと出会い,一夜を共にしてしまう.女はその日を堺に,身の回りの世話を焼くなど,徐々に主人公の生活に入り込んでくる.別れ話をすると狂言自●し,さらに主人公の自由を奪って監禁し,最後は殺そうとする.主人公は監禁されてすっかり弱りながらも間一髪で女を殺す.
この時代にはストーカーという言葉も,概念すらなかった.マッチョでクールなイーストウッドが,どこにでもいそうな中年女に,精神的にも肉体的にもじりじりと追い詰められるなど,誰も考えもしない時代だった.「ストーカー」という名称を知ってるだけでも,ある程度ストーリーの予測はついたかもしれないが,当時はストーリーが進んでも,次に何が起きるのか予測が全くつかず,何が怖いのかもわからないほどの怖さに震え上がった.
好きだから相手を独占したい,監禁してでも,殺してでも.ファン心理をこじらせて闇に落ちた女の執念の前には,男女の体力差などほとんど意味がないということも知った.まさに未知の恐怖を体験し,その後しばらくはミスティを聞くと鬱な気分になった.それにしても,なぜいつも美しいメロディには,狂気や恐怖が似合うのだろう.
https://www.youtube.com/watch?v=ZQpjM8JLh9Y動画はエロール・ガーナーの名曲「Misty」歌い出しの3音だけでそれとわかるほどの名曲である
