You are winner!
だめもとで入札したアンティークのバイオリンケースは,なんと落札出来てしまった.なんだか本末転倒な金のかけかたのような気もしたが,本体が激安だと,追加の支出もそれほど気にならない.
ケースは、ロンドン郊外の店舗でしばらく荷造りに時間をかけた後,ユーストンのヤマト運輸国際宅急便センターに到着.さらに数日後,ポーツマスから日本に向かう貨物船に積み込まれた.そしてその経緯は,逐一メールで送られてくる.
たとえ航空便があったとしても,私は船便が大好きだ.自分が船に乗るより,自分の荷物が外国からはるばる船旅をしていると思うと,なんとも言えない浪漫を感じる.とはいえ,海や船の知識は海洋冒険小説くらいしかないので,船便というだけで,スペクタクルなシーンばかりが浮かんでくる.
現代のコンテナ輸送システムは,世界史に残る偉大な発明だ.船はもちろん,港湾のクレーン,トラックからトンネルの大きさまで,コンテナに合わせた事で、衣食住から文化まで,およそ人間社会にあるものすべてを,最短時間・最低コストで運んでしまう.
それにしてもコンテナ船はなぜ転覆しないのだろう.船底に大きなおもりでも付いているのだろうか.そのへんは不明だが,多分コンピュータで際どいバランスを保っているのだろう.
だが,海の脅威は大航海時代から何ひとつ変わっていない.さしもの最新鋭大型貨物船も,突然前方に現れた予想外の巨大ハリケーンに,木の葉のようにもみくちゃにされ,やがてそそり立つ壁のような波にのしかかられてしまう.そして,スクリューが露出するほど波に持ち上げられたかと思うと,谷底のような海面にたたきつけられ,積み荷の山が崩れはじめる.ホーンブロワーは甲板を駆けまわって指示を出すが,ボースン(※1)が駆けつけて言う.
「こりゃ,ジブラルタルまで持ちませんぜ」
「やむを得ない,積み荷を捨てろ!」
「アイ,アイ,サー!」
一方ロンドンのロイズ商会では,紳士たちがくつろぐコーヒールームに,突然八点鐘(※2)が響き渡る.するとそれまで友人と歓談していた一人の紳士が立ち上がり
「失礼,個人的な用事ができたようです」と言って歩き出す.
その場にいた他の紳士達はその意味を察し,立ち上がってシルクハットに手をかけ,紳士に挨拶を送る.やがて奥の部屋から拳銃の音が...
とにかく1ヶ月の間,心はすっかり海洋冒険小説の世界に.父と財産を一瞬に失った貴族の息子が,すべてを取り戻すため,古いバイオリンケースに秘められた謎を解き明かす話が出来てしまいそうだ.
次回「新しいケースと思わぬ来訪者3」 (1/18 AM0:01)投稿予定
乞うご期待!
※1:ボースン/どういう役目か知らないが,サンダース軍曹のような現場の要
※2:八点鐘/単なる4時の時報らしいです.海難事故の際にロイズで鳴るのはルーティン・ベルというそうです.雰囲気だけで書いてます.