さて,ケースだけ落札したつもりが,古いバイオリンが入っていたわけだが,これがどうもおかしな状態で届いた.すべての弦が,やたらと強く張ってあり,実際よりずっと高い音程になっていた.運搬の都合だろうかなどと考えなら,とりあえずペグをゆるめていくうちに,「カタン」という音がした.最初はなんだろうと思っただけだったが,徐々にことの重大さに気づいた.アレが倒れたのである.
あわてて本体を揺すってみると,カラカラという音が.そう,魂柱が倒れてしまったのだ.やたらと強く弦を張っていたのは,そうやって胴体を押さえつけていないと魂柱が倒れてしまうからなのだろうか.随分なものを掴ませてくれたわけだ.ケースが綺麗だったので有頂天になっていた私に,とんだオークションの洗礼である.だが私はむしろ「しめた!」と思った.これで大手を振って自分で魂柱をいじれる.素人は絶対にやってはいけないと言われる魂柱建てをやれるチャンスだ.
魂柱を立てるにはいろいろなやり方があるようだが,専用金具に刺して,f字型の穴から知恵の輪さながらに送り込んでやるのが普通なようだ.金具は数百円のものなのでさっそく注文し,その間,以前から疑問だった「本当に魂柱がないと音がしないのか」をためしてみることにした.
魂柱無しで音がどう変わるかについて,以前はヤマハのサイトに実験動画があったらしいが,現在はない.天下のヤマハでも,魂柱を気軽に立てたり倒したりするのは大変なことなのだろうか.
そこで無い状態で弾いてみたのだが,意外にも音が出た.ちゃんと立ってる状態と比べることは出来なかったものの,それなりに大きな音が出るのである.魂柱がないと弦の振動がきちんと箱に伝わらないので,音がしないのではなかったか?
ところが,問題は起こった.弾いているうちにだんだん音程が下がるのだ.しかも奇妙なことに,強く張れば張るほど下がっていく.弦を強く張ればそれだけ本体の上の板が強く押し付けられて下がるので,その分また張りがゆるくなる.そのままさらに強く張っていけば,上の板が割れてしまうかもしれない.
そこで,魂柱は単なるつっかえ棒かもしれないと思った.ブリッジの振動を下の板に伝えるとかなんとか解説されているが、第一義的にはつっかえ棒かもしれないそう考えるといろいろ納得がいく.
魂柱はほぼブリッジの下,かつ,中央より高音弦側にずれた位置に設置するものらしいが,これはゆるく張る低音弦と,強く張る高音弦の,両者の力を按分するあたりと考えれば理屈が通る.本当に上面の振動を下面に伝えるものなら,ギターにだってあってもいい.そのことについては,弦が振動する角度が違うから,バイオリンだけに魂柱が必要などという説明もあったが,これはちょっと怪しい感じがする.
次回「魂柱を立ててみた」 (1/31 AM0:01)投稿予定
乞うご期待!
ヴァイオリンの中に魂柱なるものがあるなんて初めて知りました。弦楽器はフォーク・ギターくらいしかいじった事がなかったので空洞と思っていました。僕の先輩に大阪芸大卒の人がいましたが(僕の音楽とデザインの恩師)楽器は管楽器から弦楽器まですべてこなす器用な人で、テキスタイル・デザイナーをしていたかと思うとあっさり辞めてヴァイオリンを作る職人になった人がいました。それほど難しい楽器だから魅力があるのでしょうか。今でも信じられない名器と言われるヴァイオリンは数億・数十億もするわけで、しかも長い間使われているのも不思議です。修復をするにも外見ではなく音色が第一となれば素人では到底無理でしょうね。もしも、今治しているヴァイオリンがとんでもない名器だとしたら、そしてそれを治したとあれば大変な技を得とくした事になりますよ。そして、ヴァイオリンの名手たちから修復依頼が舞い込んでくるやもしれませんね。さぁ~大変!また忙しくなりますね。