これまでに2度,江差追分の取材をしたことがある.江差追分は北海道を代表する民謡だが,日本中に愛好者がいて,江差追分だけの全国大会が開かれている.民謡の王様という人もいる.特色は,と言えるほど知識がないが,なんと言っても息継ぎの少なさが印象的だ.聞けば分かる通り,掛け声と掛け声の間は,息継ぎ無しで歌いきらなければならない.
江差追分は,江戸時代の寛永年間,座頭の佐之市が信州の追分節をもとにして作ったといわれている.ニシン漁で栄えた江差の花街で,お座敷芸として伝わってきたらしい.民謡というと労働歌が長い年月をかけて,歌い継がれて現在の形になったように思えるが,江差追分は一人の天才が作り出したものだ.しかも元歌はともかく,お座敷芸であって,労働歌ではないという.
これは意外なようで,当然のことかもしれない.そもそもこんな息継ぎのない歌を,作業しながら歌えるわけがない.漁業ならなおさら,そんな悠長なことをしている暇も体力もないはずだ.なにより親方に殴られてしまうだろう.また船の上より,人の集まる花街で大流行して,多くの人とが聞いたから今も残っているという方が自然だ.そう思うと他の民謡も,名前が知られていないだけである日突然天才が作り出し,都会で広まったもののほうが多いのかもしれない.人のやることで,自然発生などありえないのだし.
現代人は伝統文化から切り離されて生活していて,それを敢えて残そうなどとは考えない.一方で目の前のカッコイイことに飛びついて,すぐマネをする.がこれは大昔から,どの時代の人も同じだろう.もしかしたら竪穴式住居でも,縄文式土器でも,誰かが一代のうちに作り上げたものが流行し,次の天才が新しい様式を作り出すまで作り続けられたのかもしれない.
次回「クリスマス・ソング・ア・ラ・カルト」(12/2公開予定)
江差追分は凄いですね。とっても就いていけません。裏声で転がしたり、とにかくブレスの方法が知りたくなりました。合いの手の短い間に吸っただけで、あれだけ声を伸ばせることが不思議でたまりません。普通の人の中でも特に息の長い人の三倍は伸ばしますね。しかも起源は座頭市だというじゃぁありませんか。日本の偉大なるレイ・チャールズか、スティーヴィー・ワンダーですね。盲目が故に視覚の分も聴覚が超越しているのでしょうか。