焼香

音楽に全く関係のない話だが,最近葬儀や法事が続いた。以前から気になっていたが,ほとんどの人が,焼香箱に向かって頭を下げたり拝んだりしていた.あれはただの箱と木くずなので,拝んでもしょうがないのだが.

日本では,公式の場で目上の人から物を受け取ったり,献上するときは,そのものを自分の目の上まで高く持ちあげる.焼香の場合は,仏になって高い場所にいる故人に,香を捧げますという気持ちで,つまんだ香を目の上におしいただいて見せるのが,本来の焼香の所作だ.

我々より一世代以上上の方々はその意味はわかっていたが,長年の慣れで動作をちょっと簡略化して,頭の方を下げて,目をつまんだ香の下に持っていくようにしている人もいた.目の上に押しいただく意味はわかってやっていたので,よく見ると香をつまんだ手首を返して,指先が上を向くようにしているのだが,それより若い人からは,ただ頭を下げたように見え,それが一般化したのだ.だからつい合掌も焼香箱に向かってしまうが,これは頭を上げて前を向き,本尊や個人の遺体・遺骨を拝まなくては意味が無い.

僧侶だった父は晩年,焼香をことさら大きな所作でするようになった.目の上に押しいただくだけでなく,左手を下にあてがい,献上するしぐさをはっきりく見せつけるようにした.冗談はよく言うが,大事なことはやってみせるだけでくどい説明をしない人だったが,実はそんな頃から,焼香箱を拝む人が現れてきたのだ.

意味が伝わらなくなれば,若い人が「適当に頭を下げておけばいいや」と思うのは無理もない.だが堂々とした日本人の所作というのは,実践していて気持ちのいいものだ.焼香の場などで,人と違うことをするのはけっこう勇気がいるが,ぜひ思い出してやってみてほしい.ブラックな上司やモンスターな顧客とは一味違う,文化の継承者になるというような気持ちで.

次回はお待ちかね,本筋に戻って「ヴィオラへの道」(6/28公開予定)
乞うご期待!

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