ぶつ切りの鶏肉にレッドチリパウダー、ターメリック、塩、生姜とにんにくのペースト、ヨーグルト、カード(自家製のフレッシュチーズ)、コリアンダーを順番に入れてよく揉み込んだら、さらに玉ねぎ、青唐辛子、レモンの絞り汁、生のコリアンダーの葉を混ぜて3時間味を染み込ませる。そして、スイカをくり抜いて、木の葉とともに漬け込んだ鶏肉を入れ、フタをして焚き火で焼き上げる。
促成肥育のブロイラーが並ぶどこかの国と違って、インドで使うのは親鳥だ。たくさんの卵を生み終えた親鳥は、肉は少々硬いが味が濃縮されていて、噛みしめるほどに味が出る。タンパク質分解効果のあるフルーツと一緒に長時間蒸し上げれば、芳醇な味を残したままふっくらと柔らかい、特別な日のための鶏肉料理になる。
やがてスイカの表面が真っ黒になったころ、あたりにはスパイスと鶏肉の蒸し上がった、どこか甘い香りが立ち込め、子どもたちにごちそうが近いことを教えてくれる。
女性は言う。
「伝統料理かって?どこの世界にスイカに肉を詰めて焼く料理があるもんかね。あたしのオリジナルさ。でも味は悪くなかったよ。なんと言ってもインド料理はインスピレーションだからね」(そんなこと言ってません)
この女性は、少年時代の僕たちよりもワイルドかも知れませんね。僕たちは西瓜泥棒をして河原の岩石にぶっつけて割って山分けして食べたり、ハチの巣のハチの子を柿の葉に包んで蒸し焼きにして食べたり、メダカを沢山丸呑みにしたり、水に潜って魚を突いて焼いて食べたり、アオサギの卵を茹でたり、オタマジャクシを空き缶で茹でたり、悪さはしましたが、豚肉などは焼きませんでした。せいぜい,罠にかかったウサギの肉をすき焼でいただくくらいです。
今ならグルメと言われるかも。アオサギの卵なんて、食べた人はそういないでしょう。