荒くれ男のバイオリン

前回書いたように,激安バイオリンの容貌はなかなかすさまじい.決して人前で演奏したりするべきではないシロモノなのだろうが,これを見ていると,村上水軍の使った刀を思い出す.普通の日本刀は刃先等に硬い鋼,中心部に柔らかい鉄を合わせて鍛造しているので,切れ味と柔軟性を兼ね備えていると言われているが,村上水軍の刀は軟鉄だけでできていた.釘と同じようなもので,曲がりやすい分,分厚く作っていた.すぐだめになったろうが,斬れる分にはとにかくよく斬れたという.

海賊バイオリン日本刀の表面は固くてツルツルしているために,きちんと刃先が当たらないとはじかれてしまう.そのため実戦の前には砂の山に何度も突き刺して,表面を荒らしてやらなければならないが,軟鉄の刀は,そのままでざっくりと肉に食い込んだと言われている.
上等な日本刀を潮でサビさせてしまうくらいなら,惜しげのない安物を手下に行き渡らせ,壊れたり紛失したらすぐ買う.それも戦略だ.我が激安バイオリンも,名手に使われたり博物館に飾られることはないが,無作法な荒くれ男には似つかわしい得物だ.

次回「ビブラート」(8/19公開予定)
乞うご期待!

 

3 thoughts on “荒くれ男のバイオリン

  • 8月 15, 2016 at 11:53
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    僕の父も芸術家肌で、陶芸の職人でしたが、戦災ですべてを無くし、戦後は陶芸を一切やめて田舎暮らしをしました。田舎には親戚からタダ同然で土地さえ借りれば農作物が作れるので5人の子供たちを育てるために自らを犠牲にしたのでしょう。職人技は教えてもらえませんでしたが、でも、田舎暮らしの経験のおかげで僕たちは、いつまでも心に故郷を持つことができましたし、なんとなく僕も職人の血を少し受け継いでいる気がします。父は職人技を封印したまま、あの世とやらに逝きました。お盆の墓参りも行けないですが、遠い地から、いつも感謝だけはしています。

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  • 8月 15, 2016 at 08:16
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    すごい人がいたものですね。変人というよりは、才能がありあまっていて、まっとうなものを求め続けたのでしょう。音楽や絵は、それくらいの人じゃないと、ものにならないのかもしれません。バイオリンの職人は、目見当でさっと取り掛かってしまう日本の匠とちょっと違って、図面通りいちいち測って、少しずつ作っていくようです。趣味としてやってる人もけっこういるようで、先日オークションで、親の遺品のバイオリン工具というのが出てました。ちょっと欲しくなりましたね。

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  • 8月 15, 2016 at 06:43
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    「弘法筆を選ばず」ですね。かつて音楽をやっていた頃には、どんな楽器でも演奏できる先輩がいました。芸大に進みましたが、音楽のもならず、絵も相当な腕で、卒業後はデザイナーの経験もしました。その先輩に誘われて僕はデザイナーの道を選びました。ところが先輩はデザイナーを辞めて、今度はヴァイオリンを作る工房で修行をはじめました。ヴァイオリンの製作者になったのか?音信も途絶えて現在の事は知りません。

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