北朝鮮 核の資金源:「国連捜査」秘録

北朝鮮 核の資金源:「国連捜査」秘録、古川 勝久 (著)を読んだ。面白い!個人、企業、国の実名で語られる、北朝鮮制裁決議違反の実態。「あの時のあの事件」の背景、公表されなかった事実が目の前で解き明かされていく驚き。スパイ小説も目じゃない面白さだ。

国連には、制裁決議案にもとづいて、事務総長が直接任命する「専門家パネル」という組織が存在する。メンバーは安保理常任理事国などから選ばれた8名。どの組織にも属さず、命令系統も就業規則もなく、個人オフィスと無制限のビジネスクラス利用権限を与えられ、世界中を飛び回って制裁違反の企業や取引を暴き出す。作者は、この「専門家パネル」の一人だった。

国連で制裁決議が出たからと言って、各国がいきなり特定の企業や取引を規制できるわけではない。自国の調査でどれほど怪しかったとしても、それだけで企業や取引を規制すれば、それはその国の判断で規制したのであって、国連決議に基づくとは言えない。国連の制裁委から指定された企業名などを受け取って、はじめて国連制裁決議に基づく制裁となる。その情報を作成するのが専門家パネルの役割で、制裁決議に実効性を与える役割と言える。

制裁違反の実態を調べる著者の活動は、「足で稼ぐ」調査だ。疑わしい企業の所在地や出品する展示会に出向き、経営者や取引先関係者を洗い出す。
また、各国から集められたメンバーの中には、当然スパイもいる。調査の途上で自国の企業名が出るたびに活動の足を引っ張り、制裁委への報告書への署名を拒否する。そして、最後には母国が拒否権を発動し、次年度の専門家パネルの存続そのものを取り消そうとする。彼らを説得し、時には妥協しながら、なんとか実効性のある報告書を作成するのも、著者の仕事だ。

我々は、国連制裁が決議された瞬間、不正な取引が一斉にストップし、瀬取りのようなごく一部の隠密取引だけが残ると思いがちだが、実際は、専門家パネルなどが暴き出したケース以外では、多くの不正な製品が、おおっぴらに展示会に出展されて商談が行われ、まっとうな企業のまっとうな取引として港から出荷されている。
専門家パネルの報告に基づく出動の際も、国ごとの捜査能力、捜査体制の違いが大きい。たとえば一見ただの金属棒にしか見えない最先端技術により規制対象物も、日本などでは発見できるが、途上国などでは区別がつかない。
また規制対象も多岐にわたっている。例えば北朝鮮の軍事パレードでおなじみの、ミサイル発射台つきトラックも、元はアーム部が精密に操作できる日本製のクレーン車の台車部分だったりする。こういうものも、規制対象以外との取引の名目で、堂々と送り出されていく。

工場から直接ノーチェックで海を渡っていくコンテナ、申請データ上の品名や行き先チェックだけで送り出される製品。我々の生活を便利で快適にしてくれた物流システムの合理化の、負の代償を知った気がする。

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