先日知人に誘われて、国指定史跡である島松駅逓所(しままつえきていじょ)を見学した。駅逓所というのは宿屋と郵便局が一緒になったもので、開拓農家などしかないような地域に作られる、集落の機能の始まりのような施設である。これは北海道だけに見られるもので、小さな集落でも数百年前から自治の機能が整っている本州などにはないものだ。
外観を見ただけでも、屋根の勾配がかなりゆるい上に明り取りの塔屋があるなど、雪で屋根の負担が大きい北海道に適しているとは思えないが、その分日本建築としての美しさが備わっている。建設は明治6年とあり、当時は同様の施設が全道に600か所以上設置されたという。同時期に北海道開拓使旧庁舎が建造されていて、その後、札幌時計台など、北海道の官製建築物らしいアーリーアメリカンな木造洋館が建てられていく。だが明治6年に全道に建築を大量発注するには、洋風建築の知識のある棟梁がいなかっただろう。人員や木材の手配、地域の将来を見据えた場所選定など、さまざまな未知数の中で行われた野心的な事業だったと思う。
建物内部は、長い土間が特徴的だ。また、室内にさらに伝統的な民家や寺社などの縁側を備えた建物が置いてあるようにも見える。だから土間があるというより、本州の強い日差しを避けるための設計である深い軒の先端に、戸板を並べてみたという印象がある。
島松駅逓所は北海道の歴史を物語る史跡でありながら、道内ではあまり見られない、夏に焦点を合わせた日本建築の香りを色濃く残している。暑い日にその室内にいると、北海道人にも残っている日本人のDNAが懐かしがってるような気がする。
※平面図などはPDF資料しかないようなのでこちらをチェック