スティーブン・フォスター(1826-1864)の曲。「草競馬」「ケンタッキーの我が家」など、音楽の教科書などにも登場する、アメリカ音楽の父とも呼ばれる作曲家である。
「Beautiful Dreamer」は、日本でも「夢路より」の名前で知られていて、誰もが一度は聞いたことのある曲だ。中学生の頃、この曲が8分の9拍子という変わった拍子の曲だと知り、余った1拍子はどうなってるんだろう、その割にスムーズに聞こえるが、と不思議に思った覚えがある。
フォスターの生きた時代は日本の幕末にあたり、作曲家という職業も、版権という概念もなかったため、ヒット作を発表しながらも生活は苦しいまま、38歳で亡くなっている。フォスター以後、レコードが一般的になる前の時代は、作曲家が新曲を発表すると出版社が楽譜を印刷して全国に販売した。クラブやダンスホールなどでは、バンドがこれを購入し、最新ヒット曲として演奏した。音楽業界とは出版社のことであり、作曲家はスターだった。今でもその名残は残っていて、新しい曲が「新譜=新しい楽譜」と呼ばれることもある。フォスターは、もう少し長く生きていれば、業績にふさわしいセレブ生活ができたかもしれない。それを思うと、パブリック・ドメインばかり持ち上げるのは、やや気が引けるが。
誰でも知っている名曲で、現代でも違和感のない美しいメロディなので、さぞかし多くのジャズメンが取り上げているかと思ったが、不思議なほどジャズアレンジの動画が少なかった。あっても原曲の8分の9拍子ではなく、ディキシーランドスタイルの4拍子のものばかりだった。有名だがあまりに古くて童謡っぽく思われているのか、それとも「主人は冷たい土の中に」「オールド・ブラック・ジョー」など、黒人奴隷をテーマにした曲を作っていたからかもしれない。
