ハインツは世界有数の食品メーカーであり、特にトマトケチャップが有名だ。よくアメリカ人は何にでもケチャップをかけるなどと言われるが、そのケチャップはハインツのことだと言っていい。日本でのシェアは10%程度なので、誰もがおなじみの味ではないかもしれないが、トマト風味が濃くクセがないので、ピューレがわりに使うこともある。そのハインツの歴史を描いたドキュメンタリー動画を見た。
産業革命後のアメリカでは、都市人口が急増し周辺地域からの生鮮食品の供給が追いつかなくなった。市場には、鮮度が落ちた肉や野菜がならび、また食品添加物に関する規制そのものがなかったことから、さまざまな薬品を添加した加工食品が生まれた。
創業者のヘンリー・J・ハインツは、15歳から自家製のホースラディッシュの瓶詰めを製造販売したが、当時の瓶詰食品が内容物を見せないために色の濃い容器を使っていたのに対し、透明瓶を使って安全性をアピールした。
その後現在も本社のあるピッツバーグに大規模な工場を建て、トマトケチャップの大量生産を始めた。その際、工場だけでなく従業員の住宅や学校なども含む、ひとつの集落を作ったという。またこの工場では、フォードに先立って製造に電力とコンベアによるライン方式を導入した。
アメリカの食生活といえば、パッケージされた大手メーカーの加工食品を多用する印象がある。炊飯器を発明してまで自宅での調理にこだわってきた日本人にはなじみにくいが、アメリカ人が食に無頓着というわけではない。消費者は食品の安全性には厳しいと同時に、信頼もする。大手メーカーはその信頼に応える。そこで、地域の惣菜店などに並ぶ食品より、安全でおいしい加工食品が選ばれ、それが食品工業の大規模化と効率化を促す。それが他の産業にも波及し、市場稀に見る経済・産業大国を誕生させたと言えるだろう。
同じ地域社会に育ち、同じ郷土食を食べて育った者同士に連帯感が育つように、アメリカ人にとっては、大手メーカーの製品を食べること自体が、国民のアイデンティティなのかもしれない。