楽器家紋 / いろは鍵盤

伝統的なものだけでなく、身につけた人間の生まれ育った風土や専門分野、趣味をモチーフにした家紋、時代性を盛り込んだ家紋があったら楽しい。それが日本独自の家紋文化の拡大発展につながるようなら、なお面白いと思う。というわけで今回は楽器の家紋。キーボードだ。

鍵盤のラシドの部分、日本式で言えば、「イ、ロ、ハ」の部分がモチーフ。伝統的な家紋にもこういうシンプルなものが多いので、けっこう家紋らしくなったと思う。

ところで、ドレミファソラシドの音階は、英語やドイツ語ならCDEFGABC、日本式ならハニホヘトイロハだ。ABCにイロハの文字を振ったのはわかるが、なぜAではなくC(ハ)から始まるのか。これは「ラ」の音から始まる音階のほうが先にあったからだそうだ。
では、そもそも「ドレミファソラシド」とはなんだろう。どこかの国のアルファベットかと思って調べたら、紀元10世紀のイタリアで始まった言い方だそうだ。
当時教会音楽の中に、各節の頭の音がちょうど1音ずつ上がっていく曲があった。その歌詞の頭の部分をならべると、ド、レ、ミ、ファ…になっていたので、音の名前として使われるようになったのだそうだ。要するに当時の「ドレミの歌」からとったわけである。

楽器家紋/ 千鳴り六弦琴

伝統的な家紋だけでなく、身につけた人間の生まれ育った風土や専門分野、趣味や時代感覚を盛り込んだ家紋があったら楽しい。それが家紋という日本独自の文化の拡大発展につながるようなら、なお面白いと思う。そこで今回は楽器家紋の第三弾「千鳴り六弦琴」である。

六弦琴とはギターの和名だそうだ。豊臣秀吉の「千成瓢箪」に見立てたので、ギターとしてはややいびつだ。また千成瓢箪は正確には「馬印」といい、合戦の際に大きな「のぼり」に書いた印である。会社の社章と別にブランドマークがあるようなもので、有名な「風林火山」などと同じだ。本来の「千成り」ではなく「千鳴り」にして、無数のサウンドを鳴り響かせるという意味を込めてみた。悪くないと思う。

豊臣秀吉は出世物語や黄金の茶室、大茶会イベントの開催など、派手なエピソードで知られるが、現代社会でも難しい「刀狩り」を実現した人物だ。刀狩りとは武装解除のことで、戦国時代に蔓延した銃を全国から一掃させたということである。少しでも油断すると誰かに命を狙われるような不安定な社会では、一旦手に入れた銃を手放す気にはならない。また、いかに強い軍隊を持っていても、力だけで武装解除はできない。平和が訪れたことを納得させ、日本中の武装集団ひとつひとつをあたって、利益を提供したり脅したりして説得する、地に足のついた活動が必要だ。
ついこの間、武装組織タリバンが解散した。強大なアメリカの力を持ってしても、今までかかったことになる。武装解除というのはそれくらい難しい事業だ。その恩恵は大きく、我々日本人が日頃銃による犯罪に巻き込まれる心配をしないで暮らしていられるのも、元をたどれば秀吉の刀狩りのおかげでともいえる。

楽器家紋 / 「巴洋琴」

伝統的なものだけでなく、身につけた人間の生まれ育った風土や専門分野、趣味をモチーフにした家紋、時代性を盛り込んだ家紋があったら楽しい。それが家紋という日本独自の文化の拡大発展につながるようなら、なお面白いと思う。そこで楽器をモチーフにした家紋を考えた。第二弾は巴洋琴。

ピアノの和名は洋琴だそうだ。グランドピアノの向きを変え、いわゆる巴型に組み合わせたら、家紋らしくて収まり良く仕上がった。あまりいじくらずに簡単にできてしまったので、なかなかお気に入りである。

グランドピアノを個人で持っているという人も、いなくはないだろうが、我々がお目にかかるのはもっぱらホールなどだ。日本のホールには、地方都市でもグランドピアノが置いてあり、メーカーを選べるところもある。しかも常に調律済みなので、世界中のピアニストに評判がいい。

ソヴィエトの崩壊後、政府のバックアップがなくなった音楽家がこぞって来日するようになった。そしてホールの音響設計の良さと調律されたピアノがあることに、喜んだという。その後日本では、地方都市でも世界的音楽家の演奏会が開かれるようになった。日本からの生徒を優先的に受け入れる巨匠や、世界ツアーに日本人調律師を同行させる巨匠もいたという。クラシック界のことなのでよくわからないが、世界的コンクールに入賞する日本人も増えたはずだ。地味な仕事を丁寧にこなし、評価を得るというのはいかにも日本人らしいエピソードだと思う。

ところで最近のコンサートでは、横っ腹にデカデカとメーカー名のついたグランドピアノが登場する。メーカーとホールのウィンウィンはわかるが、ピアノの形や音色で分かる人もいるだろうし、プログラムに書けば済むことである。アーチストの芸術世界が主役なのだから、脇役は奥ゆかしくしててもいいんじゃないだろうか。