練習曲を選ぶ

バイオリンを弾くようになって、いろいろな曲を練習した中には、すぐ上達したものも挫折したものもある。挫折しやすい曲は以下のような傾向があるように思う。
1 知らない曲
これは難しい。楽器指導サイトのオリジナル練習曲は、技術的には簡単でもなかなか覚えられないし、思い入れがないと、つまらないのであきてしまう。また、初めて聞いたときに良い曲なので練習し始めたものがあったが、いざ楽器を手にすると、驚くほど旋律を覚えていなかった。若い頃はちょっと聞いただけですぐ鼻歌くらいできたような気がするのだが。これも歳を取ったからなのか、それとも若い頃もわかったつもりの錯覚だったのか。
2 オーケストラやバンド曲
こういう分け方をするとほとんどの曲が含まれてしまうが、メロディラインがいくつかの楽器の間で引き渡されたり、和音になってないと雰囲気がでないものがある。こういう演奏からメロディだけをぬきだしても、なんだか冴えない。楽譜を手に入れたとしても同じことだ。当たり前だが、オーケストラやバンド曲は、複数の楽器のハーモニーでなければ出せない世界を生み出しているのだ。これをもしソロでひこうと思ったら、ソロ曲に編曲し直して伴奏が支えてくれていた部分を補う力量が必要になり、結局挫折してしまうことが多い。
ただし最近は、いろいろな曲のバックグラウンド演奏が手に入ることが多い。もし将来人前で演奏するときも、同じ伴奏音源を持ち込むことに決め、その伴奏で演習を続けると、伴奏なしよりずっと勉強になる。
3 クラシック曲
クラシック曲はささいなミスでも目立つし、バイオリンである以上、音色も美しくないとぶち壊しになってしまう。カントリーや民族音楽に比べて、バイオリンに対する音色や音程の基準がシビアすぎる気がする。逆にバイオリニストがポピュラーを弾くと、どこでもかしこでもビブラートを入れ、またテンポを外しても割りと気にせず、聞いていてドライブ感を感じないときがある。クラシックは、挫折以前に挑戦しないほうがいいジャンルである。
4.楽譜だけの曲
その昔、1曲だけでもピアノが弾けるようになりたくて、モーツアルトが5歳の時に作曲した作品という楽譜を買ったことがある。見るからに単純な楽譜だったが、全くものにならなかった。指だけは動くようになったが、違和感がどんどんつのってくる。CDと聴き比べたのだが、どこをどう変えればいいのかもわからない。「これがモーツアルトのすごいところなんだな」と納得したが、要はその100倍聴き込んで、耳タコになってから弾きはじめるくらいでないとダメだったのだと思う。

私の練習曲/テネシー・ワルツ

バイオリンを買って、最初にやってみたいと思ったのがこの曲。また、古い曲なので民謡か、著作権が切れているものと思っていたら、しっかり期間中だったことで、パブリック・ドメインに関心を持ったきっかけにもなった。大抵の人が知ってる名曲で、未だにレパートリーにするプレイヤーも多い。ネット上にも、お手本にできる演奏が数多くあるので、自分の気に入ったスタイルを見つけることができる。何より三拍子なので、四拍子の曲に比べてすぐメロディの節目がくるので、演奏中に気を抜いたり、破綻を取り繕ったりできる。

今回取り上げたのは、イギリス人Chris Haigh氏の指導動画。典型的なカントリー調で、以前は難しくてできなかったダブルストップ(和音)の入れどころなどを勉強しようかと思っている。

この人のサイトfiddle stylesのページには、世界各地のフィドルの演奏スタイルが紹介されていて、研究ぶりがうかがわれる。中東音楽での演奏へのリンクもあるので、バイオリンがクラシックだけでなく、さまざまな民族音楽やポピュラー音楽の世界で愛されてきたことがよくわかる。

私の練習曲/ボサ・ノバ伴奏動画

ブルースはどれもだいたいコード進行が同じで、リズムや伴奏によってジャズだったりロックになったりする。それと同じように、特定の曲ではないのにいかにもボサ・ノバらしく聞こえるコード進行と伴奏の動画があった。ブルースの伴奏動画と同様、テーマがないから最初からアド・リブをするしかないのだが、適当に音を出してもそれらしく聞こえるという点では、ブルースよりやりやすくて非常に楽しい。

楽器を練習をする目的は、つまりところ格好いい演奏をしたいということに尽きるだろうが、ポピュラー音楽をめざすなら小学校唱歌的なお行儀の良い和音ではなく、ちょっと外したような音を出してみたいと思うはずだ。この動画の場合は、適当に出した音でも、不思議とボサ・ノバのフィーリングをつけてくれる。また、あまりたくさん音を出さず、2分音符や全音符などの長い音を出しているだけで様になる。もともとテンポはゆっくりだし、ボサ・ノバ自体が力の抜けた曲調なので、テンポを気にせずのんびり音を出していればいい。我々未熟者のためにあるような伴奏だ。プロの演奏はどうしてもテクニックも見せつけなければならないので、早くて音の多いフレーズも弾いてみせなければならないが、アマチュアはそんな必要はない。