一生のお願いをしてみよう

誰かに、一生のお願いをしたことがあるだろうか。子供時代におもちゃか何かを買ってほしくて言ったかもしれないが、大人になってから、まともな理由でした人は少ないだろう。これまで、そこまでしなくて済んでいれば幸いだし、連発するのもどうかと思う。

だが、いい歳になったのだから、せっかくなら、そろそろ周囲の人に対して、一生のお願いを使い切ってしまうのはどうだろう。金の工面というような生々しいのではなく、何度も頼むにはちょっと図々しいが、1回だけなら、そんなことで良ければと相手が喜んで応じてくれるようなお願いだ。これをするには相手との距離感の見極めが大切だし、同様のことを自分にも遠慮なく言ってくれと言うのをわすれてはならないが。
一生のお願いなどと軽々しく口に出してはいけないが、歳を取ると時間の経つのが早く、人間関係もこれといってドラマのないまま、なれ合いで過ぎてゆく。日々の生活が軽々しいようではつまらないので、手頃な刺激を与えて、もう少し人間関係に重みを持たせるのは悪くないと思う。特に誰かと小さなわだかまりがあるときなど、解決するのにちょうどいい口実かもしれない。
逆になにかのときのために、一生のお願いを取っておくというのも、なんだかみみっちい。だからそろそろ一生のお願いを使ってしまうのは悪くないと思う。

T型フォードの修復

T型フォードは、1908年の発売以来1700万台が製造された名車で、世界初の流れ作業ラインが採用されるなど、技術、産業、経済史の上でも記念碑的な製品だ。そのスクラップを走行できるまでに修復する動画である。


(シリーズ全編の視聴はYoutubeで)

ボディや車輪のスポークは木でできていて、馬車の名残がある。かと思えばドアにはウィンドウガラスを上下する仕組みが備わっている。すべてが簡素にできているので、分解、組み立てを見ていると、車に詳しくなくてもなんとなく構造や仕組みがわかってくる。修復にあたっているのは一人で、機械や金属の知識があるのは当然だが、木工やミシンがけ、椅子づくりまで一人でこなしてしまう。機械の力を使いこなす現代ならではのマルチ職人というところだろう。最後にドライブ映像があり、運転のしかたを説明しているが、室内は運転席と言うより押し入れに入ってるようだ。運転した感覚は自動車というよりトラクターだそうで、丘を登るときと下るときは違うとか、普通のブレーキはきかないとか、日本語字幕にすると解説も面白い。

六月四日

昨日の後日談。

天安門事件の直後、日本での留学を終え無事帰国した中国人留学生から一通の手紙(当時はインターネットがなかった)が届いた。我が家では家族会議を開いて、万一中国を脱出して来た場合はかばってやろうと話し合った矢先だったので、緊張しながら封を切ったが、パソコンが壊れたので部品を送ってほしいというものだった。

当時中国には国産パソコンがなく、あるのはIBM製の輸入品だけで、それも日本の何倍もの値段がした。研究者としてぜひ欲しいものだったが、日本人でも二の足を踏むような値段で、とても手が届かなかった。日本の電気店で、適正価格でパソコンを買うのも留学の目的の一つであり、しかも折悪しく帰国の時期は東芝COCOM事件の直後で、電子機器が持ち出し禁止になったのを、天下の〇〇運輸が1日だけ前に受け取っていたことにしてくれて、なんとか持ち帰れた品である。それを帰国してすぐに、電圧の違う中国のコンセントに差し込んでしまったのだという。

そういえば彼は、過酷な選抜試験を上位で突破した秀才である一方、ちょっとおっちょこちょいでもあった。拍子抜けしたが、大事でなかったので安心した。どうやら天安門事件については全く知らされていないらしく、彼にとっては壊れたパソコンが天下の一大事だった。大学にいるだけあって、工学系の学生などが集まって修理したのだが、どうしても一個のコンデンサだけ代用品がなかったらしい。

私は、付き合いのある事務機器会社やIT関連会社(当時はそういう言い方してたかどうかは忘れた)に、事情を話した。天安門事件にからめて、多少脚色したのはご愛嬌である。基盤ごと修理するのが一般的で、部品一つだけ調達するのはかえって面倒だったらしいが、数日して、そのすべてから問題の部品が送られてきた。しかも異口同音に「金はいらない」と言ってきた。政治、経済、文化云々を別にしても、私は、つくづく日本は良い国だと思った。

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