その昔、原発の放射線管理区域を見学したことがある。ロッカーの前で着てきたものを脱いでパンツ一枚になり、階下にあるチェックゲートまで歩いて行き、放射線防護服のような白いつなぎを着る。服の背中には大きく「LL」とサイズだけ書かれていて、パンイチ行進同様なかなか羞恥プレイだが、原則では着てきた服のままでもいいし、カメラでもビデオでも、何でも持ち込んでいい。ただし万一帰りに放射線チェックに引っかかったらすべて置いていき、その後低レベル放射性物質として処理される。
着替えロッカーは「来客用」があてがわれたが、横を見ると職員名とならんで「IAEA」と書いたロッカーがあった。
IAEA(国際原子力機関)は国連の保護を受けるが、いかなる国や組織、国連からも影響を受けない独立組織である。核兵器の削減や核物質の保管について、国際的に取り決めをしても、実証されなければ意味がない。それを、逐一現場に出向いて確認して回るのがIAEAである。日本の原発もそうだが、チェルノービルやザポリージャなど、戦火の最中の施設にも調査員を送り込む。つい先日も、ザポリージャには爆発物が仕掛けられていないというレポートが送られてきた。
IAEAの権威は極めて大きい。調査を拒否したり、報告を無視しようとする国は、国際社会からの孤立を覚悟しなければならない。第二次大戦や冷戦によって生まれた核の脅威を、なんとか軽減しようという各国の意志、人類の「善」の歴史の象徴である。国連をはじめ国際機関に対して、十分機能していない、ないほうがマシだなどという人もいるが、今はそれしかできなくても、それが人類の精一杯なのだと思う。