感染予防の話ではなく、アメリカの実業家イーロン・マスク氏のこと。世界中に愛用者のいるTwitterの名称を突然「X」に替えただけでなく、いくつかの重要なサービスを仕様変更し、有料化するという。私は腰掛けユーザーなので違いが分からないが、ヘビーユーザーにとっては、重大な技術的不利益を被るらしく、代替サービスへの乗り換えが続いている。
また、こちらは私でも重要性がわかるが、同氏は昨年、人工衛星を利用したインターネット・サービスである「スターリンク」の、ウクライナ軍による利用を停止させたという。これは彼の自伝にあったもので、ウクライナ軍がスターリンクを利用してロシア艦隊への攻撃を行うことを知ったマスク氏が、ロシアの核攻撃による報復を懸念して独断で行った措置らしい。ウクライナ軍は。ロシアによる通信妨害に悩んでスターリンクを代替手段にしていたが、マスク氏はそもそも戦争に利用されることに疑問を持っていたともいう。
核戦争を阻止した勇気ある行為ととれなくもないが、戦争において特定の作戦がどういう結果を生むかは、専門家の軍人でもなかなか予測できない。核戦争を阻止するには、核戦争を始めるのと同等以上の力が必要だが、マスク氏はそれが自分にあると考えたらしい。
また、企業のトップが独断を下せるのは経営や人事に関わる部分であって、現場の業務ではない。それにあてはまらない企業も多いが、少なくとも公共性の高い事業の場合、トップの独断で現場の業務に介入できない仕組みが整っていなければならない。命令は絶対と言われる軍隊でさえ、上官が常軌を逸した命令や行動を行った場合、拒否したり、階級の直下の部下が上官を解任できる仕組みがあるくらいなのだ。
インターネットはテロリストなども利用しているが、利用の規制や制限に関してはかなり慎重だ。公平なことがいつも正しいとは限らなくても、すくなくとも公平な運用姿勢が信頼の基盤である。それがトップの独断で簡単に乗り越えられてしまうのは驚きだし、何よりそんなマスク氏の「万能感」が怖い。