潜水艦諜報戦<上><下>(新潮OH!文庫)

人類の歴史上2番めに古く、1番目よりも不名誉な仕事。本書は、冷戦時代の潜水艦による諜報活動を描いたドキュメンタリーである。潜水艦はアメリカ南北戦争のミシシッピ川で登場して以来、ドイツ海軍のUボードなど、兵器としての活躍が知られているが、第二次大戦後には主にスパイ活動のために利用されている。が、隠密性が特色だけにその活躍ぶりを知る機会は少ない。「潜水艦諜報戦」(新潮OH!文庫)は、米軍の潜水艦の諜報活動を描いたドキュメンタリーである。

本書では、敵に追い立てられる潜水艦内の描写から、予算の獲得のために軍や政府内部で行ったウソや圧力の行使まで、すべてが生々しく語られる。例えば事故で沈没したソ連の潜水艦を先に発見するために、わざわざ老朽艦を1隻沈めてその時に出る圧潰音を録音し、それを分析して沈没地点を特定するなど、最新、最前線だからこそ大胆で泥臭いエピソード満載で、最後まで目が離せない。

オホーツク海での海底ケーブルの盗聴、バレンツ海の相手領海内での軍港の監視など、書いて良いのかと思うような作戦や、不名誉な事故などについても余すところなく語られるほか、核兵器に関するぞっとするような事実まで明らかにされている。とりわけ下巻の巻末には、過去の潜水艦による極秘作戦や事故、戦闘行為について、本文で書ききれなかった情報が、時期や海域、艦名までもが列記されていて、これが相当なページ数を占めている。そのせいか、既に絶版となり古本でしか手に入らないが、下巻の値段だけがかなり高い。冷戦期を扱ったドキュメンタリーではあるが、潜水艦による諜報活動が当時より減ったとは思えない現在、物騒な国際情勢を読み解くにも欠かせない1冊だ。