魂柱を立ててみた

期せずして手に入れたバイオリンは,弦をゆるめただけで魂柱が倒れてしまった.そこで本体を裏返し,魂柱を転がしながら,なんとかf字孔から取り出そうとしたのだが,これがなかなかうまくいかない.バイオリンを高く持ち上げて,揺すったり,傾けたりしながら,細いf字孔まで魂柱が転がってくるのを待つ.なんとか顔を出したのを,慎重につまみだしたのだが,出てきたのは小さな小汚い木の棒,というかほとんどゴミ.そのへんに落ちてたら,何も考えないで捨てるだろう.

その小さな木の棒を,狭いバイオリンの内部に立てるため,専用の道具がある.一端が尖り,もう一端は円盤に4箇所の切り込みが入っている.まずはこの金具を曲げ,尖った部分に魂柱を突き刺し,f字孔から送り込み,ちょうど良い場所に立てるのだ.
取り出した魂柱の中間辺りに小さなに刺し傷があるので,そこに魂柱立てを刺したのだろう.試してみたが,先端があまり鋭利ではないので,ポロリと落ちる.そこで金属ヤスリで先端を尖らせ,なんとか魂柱を突き刺した.刺したと言ってもそれほどしっかりは刺さらない.引っ掛けたと言ったほうがいいくらいで,なんとも心もとない.

魂柱立て作業試しにそっとf字孔から魂柱を入れてみるが,どこかに触ったのだろう,ポロリと魂柱がとれた.そしてカタンと音を立てて,バイオリンの内部に転がる.最初からやり直しである.
そこでまたバイオリンをひっくり返し,口を半開きにしたりペコちゃんの舌にしたりと,百面相をしながら,なんとか再び魂柱を回収.また内部に送り込むと,どこかに触って落ちる.賽の河原の石積みさながら,徒労感だけがつのる,なんとも苦手な作業だ.
だが,何度目かで魂柱がはまった.本来立てる位置は厳密に決まってるのだが,ちょこっと覗いてみて,それらしい場所のように見えなくもない.OKだ.これでいい.何より,やり直したくない.もしかしたら,まぐれでうまくいってるかもしれない.ということで,ようやく新しいバイオリンを試奏することにした.

次回「香り立つ,バイオリンの調べ」 (2/3 AM0:01)投稿予定
乞うご期待!

<覚書>手づくりフランクフルトの裏技

年末にフランクフルトを自作して失敗した.皮が噛みきれないほど弾力があり,中身は茹でたハンバーグのようになってしまった.そこでネットや資料を調べ,改めてコツと思しきものを検討してみた.

  • 新鮮な肉を使うこと
  • 十分に練ること
  • その間,温度を上げないこと

一般的なレシピは肉の他には塩や香辛料,冷水だけで作ることになっている.そこで考えたのは,多分これはレストランで手作りで出しているような,上品なもののことだろうと.我々が日々食べているのは,もっと雑駁なものだ.しいて言えば肉カマボコで,肉の質も鮮度もそれなりの,工場の他の部門で余った肉をミンチにし,添加物を加えて作っているだろうと.いきなりシェフの名人技ではなく,どこにでもあるメーカーの,カマボコフランクを目指すのが基本だろうと思った.

そこでまず,買ってきたひき肉と,脂身の多いスライスの豚バラ肉を冷凍にした.ソーセージは脂身を40%も入れなければならないが,幸い特売だと,ひき肉もバラ肉スライスも,盛大に脂身を入れて増量してるので,それを使えば一挙両得だ.冷凍した肉類をザク切りにして,デンプンを加えた.材料を練るにあたっては,厚手のゴム手袋の中にさらに軍手で断熱したものをはめた.こうするといつまでも肉が冷たいので,指先が凍傷になりそうだったが,仕上がりは上々だった.ネットでは,エマルジョン風になるまで練っている例もあったが,そこまでしなくてもなかなかの粗挽きフランクができあがった.これでデンプンの量や練具合で,どの程度カマボコ状のプリプリにするか調整できる.

残る課題は皮.ゴムさながらに弾力があり過ぎて,プツンと噛みきれない.考えてみれば,体内で簡単に切れてしまってはこまるから,相当弾力があって当たり前なのだ.また,自作用の皮は,素人が破れにくいよう敢えて固めの部分を使ってるということもありうる.さらにはメーカーでは,噛みごたえのために皮を薄くそいだり,微細な穴を無数に開けるといった加工がしてるかもしれない.そもそも天然ではなく専用の人工皮かもしれない.

この点についてネット上では,肉を充填した後に,皮の表面を乾燥させるのがコツだとある.これはそのまま燻製工程に入る場合なら,燻製器の熱で乾燥させることができるが,そうでない場合は,冷蔵庫で一晩置くことになる.中身が生肉だけに,これはちょっと怖い.

さて,以前からソーセージ類は保存食と言えるかどうか疑問に感じていた.NHKのドキュメンタリーで,ドイツの田舎で冬を前に豚を一頭屠殺し,1年分のソーセージを作るところを放映していたが,その時から1年も持つのだろうかと不思議だった.そこで考えたのだが,市販のものは伝統的なソーセージに比べて塩が薄いのではないだろうか.塩が十分なら冷蔵庫ではなく納屋のようなところでも腐らない.皮どころか内部までサラミのように乾燥しても腐らない.味は大分塩辛いだろうが,昔の塩引き鮭が熟成した旨味があったように,別な味わいも期待できる.次は塩をたっぷり効かせて,熟成させてから食べてみよう.

来訪者が明かしてくれた,バイオリンの秘密

さて,ケースだけ落札したつもりが,古いバイオリンが入っていたわけだが,これがどうもおかしな状態で届いた.すべての弦が,やたらと強く張ってあり,実際よりずっと高い音程になっていた.運搬の都合だろうかなどと考えなら,とりあえずペグをゆるめていくうちに,「カタン」という音がした.最初はなんだろうと思っただけだったが,徐々にことの重大さに気づいた.アレが倒れたのである.

あわてて本体を揺すってみると,カラカラという音が.そう,魂柱が倒れてしまったのだ.やたらと強く弦を張っていたのは,そうやって胴体を押さえつけていないと魂柱が倒れてしまうからなのだろうか.随分なものを掴ませてくれたわけだ.ケースが綺麗だったので有頂天になっていた私に,とんだオークションの洗礼である.だが私はむしろ「しめた!」と思った.これで大手を振って自分で魂柱をいじれる.素人は絶対にやってはいけないと言われる魂柱建てをやれるチャンスだ.

魂柱立て金具
上の状態で売ってるものを,自分で下のように曲げて使う.

魂柱を立てるにはいろいろなやり方があるようだが,専用金具に刺して,f字型の穴から知恵の輪さながらに送り込んでやるのが普通なようだ.金具は数百円のものなのでさっそく注文し,その間,以前から疑問だった「本当に魂柱がないと音がしないのか」をためしてみることにした.

魂柱無しで音がどう変わるかについて,以前はヤマハのサイトに実験動画があったらしいが,現在はない.天下のヤマハでも,魂柱を気軽に立てたり倒したりするのは大変なことなのだろうか.
そこで無い状態で弾いてみたのだが,意外にも音が出た.ちゃんと立ってる状態と比べることは出来なかったものの,それなりに大きな音が出るのである.魂柱がないと弦の振動がきちんと箱に伝わらないので,音がしないのではなかったか?

ところが,問題は起こった.弾いているうちにだんだん音程が下がるのだ.しかも奇妙なことに,強く張れば張るほど下がっていく.弦を強く張ればそれだけ本体の上の板が強く押し付けられて下がるので,その分また張りがゆるくなる.そのままさらに強く張っていけば,上の板が割れてしまうかもしれない.

魂柱の位置
魂柱なしだと,弦を強く張れば張るほど、上板が下がっていく

そこで,魂柱は単なるつっかえ棒かもしれないと思った.ブリッジの振動を下の板に伝えるとかなんとか解説されているが、第一義的にはつっかえ棒かもしれないそう考えるといろいろ納得がいく.
魂柱はほぼブリッジの下,かつ,中央より高音弦側にずれた位置に設置するものらしいが,これはゆるく張る低音弦と,強く張る高音弦の,両者の力を按分するあたりと考えれば理屈が通る.本当に上面の振動を下面に伝えるものなら,ギターにだってあってもいい.そのことについては,弦が振動する角度が違うから,バイオリンだけに魂柱が必要などという説明もあったが,これはちょっと怪しい感じがする.

次回「魂柱を立ててみた」 (1/31 AM0:01)投稿予定
乞うご期待!