今まではバイオリンを修正する話ばかりだった.では,肝心の演奏が上手になったのかと言われれば,自分としては最初とは格段に違う,とは言える.もちろん人に聞かせられるレベルじゃない.一曲通してミスなしで演奏できるレパートリーもない.だが,逆に「おっ,ここはうまく行ったぞ」とか,間違って出した音がかえってかっこよくて,「今度からこれで行こう」と悦に入ることもある.練習と言っても,苦行や我慢をしているわけではない.自分程度の年齢になれば,これまでで一番辛かった時期のことを思えば,たとえさっぱり上達しなくても,のんびりバイオリンを弾いてる時間など夢のひとときだ.
さて,私はどんな曲をどう練習しているか.基本的に古い曲を探すことにしている.これは,万一人前で披露することになった場合,著作権が切れたもののほうが安心だからだ.最近は著作権の管理が厳しくなり,名曲喫茶やライブハウス,ダンス教室まで,踏み込まれて数年分の使用料を請求されるケースが増えている.その結果廃業したところも多いという.
また,古い曲は良い曲が多い.素直でシンプルなメロディでありながら優雅さがあり,幼稚にきこえない.そんな理由で選んだ曲のひとつが「私の青空/My Blue Heaven」だ.
これは有名なエノケンの歌.流石にリアルタイムで聞いた世代ではなく,ちょっと古くさく感じるが,
良い曲のいいところは,新しい感覚のアレンジにも耐えるところだ.
こちらも同じ曲.テンポも早く,アレンジも新しい.一説によれば,曲というのは音階とリズムの順列組み合わせなので,いつか出尽くしてしまう.鼻歌や簡単な楽器で演奏してもシンプルで美しく感じるような良いメロディは,賛美歌や古いポピュラー曲で使われてしまってるので,新しい曲は,歌うのが難しく,複雑なアレンジをしなければならないものが多くなってしまったのだという.本当かどうかは分からないが.
また,スローテンポの曲は避けている.ゆったりとした調べはバイオリンの魅力の一つだが,下手がやるとアラが目立つ.ミディアムテンポ以上で,チャカチャカとノリのいい曲なら,なんとかごまかしが効く.
「私の青空」は,古い曲ならではのシンプルさのおかげで指使いもそれほど難しくなく、我ながらうまいところを選んだと思っていた.最近は誰も歌ってないので,リバイバルヒットに乗っかってるようにも思われない.自分のめのつけどころを自画自賛してたら,さっそくコンビニのBGMで流れてた.どこも著作権のがれに,同じことを考えているのだ.
それにつけても,歌詞がいい.
せまいながらも 楽しい我家
愛の灯影(ほかげ)の さすところ
恋しい家こそ 私の青空
果たして今の時代に,こんな言葉を心から言える人がいるだろうか.
次回「なんでも移調」(2/10 AM0:01 投稿予定)
乞うご期待!