本来のパフリング(purfling)
わずか8千円の激安バイオリンを1年以上使ってみると,さすがに激安の激安たる所以が見えてくる.それよりやや値の張るビオラを手に入れたので,その差は歴然だ.
まず上下2枚の板は,合板の型押し成形だろうと思う.中を覗き込んでも,刀による彫り跡や表面と同じ木目が見えない.胴体の周囲をぐるっと縁取る黒い線=パフリング(purfling)が,本来は黒くて薄いリボン状の板を象嵌したものだが、激安の場合は印刷か書いたものだ.
また,そのパフリングの部分は,本来なら上板がかなり彫り込まれて,ずーっとくぼみになっていて,その分楽器の外縁はせり上がってるくらいでなければならないが,激安はそのへんが平坦である.プレスだから手で彫るような細かい造形はできないのだろう.
塗装もつや消しで,バイオリンらしい透明感と深みのある色合いではない.同じメーカーが同価格で,カラーペンキを塗って仕上げてたものを出してるくらいだから,そもそもが木目のプリント合板なのかもしれない.
これではさすがに,バイオリンの名に値しないと言われてもしかたがないが,音は気に入ってる.最初からオペラ的な美声ではなく,浪花節のだみ声が気に入っていたのだが,むしろだんだんこなれた,いい音になってきているような気がする.
音といえば,激安バイオリンはすぐ音が出しやすくなったような気がする.からっ下手からのスタートなので確かなことは言えないが,こなれるまでに時間がかからなかった.すぐに毎日調律しなくても音程が変わらなくなり,多少松脂が薄くなっても,するすると音が出るようになった.あくまで推測だが,高価な楽器は,慣らし運転の期間にもう少し手こずるのではないかと思う。
多分,きちんとした職人の手作りのものに比べると,その分寿命が短いのだと思う.楽器全体にかなり強いテンションがかけられ続けているので,昔ながらの素材や工法を使わないものは,突然どこかが割れたり裂けたりしてもしかたがない.
まだ自分でわからないだけで,他にも欠点はあると思うのだが,一方なんと自分向けの楽器だろうとも思う.あともう少しの間がんばって音を出してくれればそれでいいし,他人に譲るようなものではないから,最後は捨ててもらって何の惜しげもない.あたら高価な新品を手に入れて,下手なせいできちんと慣らしが行われずに,ポテンシャルを引き出せないまま終わらせてしまうのに比べれば,ずっとましなことをしていると思う.
次回「荒くれ男のバイオリン」(8/15公開予定)
乞うご期待!