荒くれ男のバイオリン

前回書いたように,激安バイオリンの容貌はなかなかすさまじい.決して人前で演奏したりするべきではないシロモノなのだろうが,これを見ていると,村上水軍の使った刀を思い出す.普通の日本刀は刃先等に硬い鋼,中心部に柔らかい鉄を合わせて鍛造しているので,切れ味と柔軟性を兼ね備えていると言われているが,村上水軍の刀は軟鉄だけでできていた.釘と同じようなもので,曲がりやすい分,分厚く作っていた.すぐだめになったろうが,斬れる分にはとにかくよく斬れたという.

海賊バイオリン日本刀の表面は固くてツルツルしているために,きちんと刃先が当たらないとはじかれてしまう.そのため実戦の前には砂の山に何度も突き刺して,表面を荒らしてやらなければならないが,軟鉄の刀は,そのままでざっくりと肉に食い込んだと言われている.
上等な日本刀を潮でサビさせてしまうくらいなら,惜しげのない安物を手下に行き渡らせ,壊れたり紛失したらすぐ買う.それも戦略だ.我が激安バイオリンも,名手に使われたり博物館に飾られることはないが,無作法な荒くれ男には似つかわしい得物だ.

次回「ビブラート」(8/19公開予定)
乞うご期待!

 

激安バイオリン細見

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本来のパフリング(purfling)

わずか8千円の激安バイオリンを1年以上使ってみると,さすがに激安の激安たる所以が見えてくる.それよりやや値の張るビオラを手に入れたので,その差は歴然だ.

まず上下2枚の板は,合板の型押し成形だろうと思う.中を覗き込んでも,刀による彫り跡や表面と同じ木目が見えない.胴体の周囲をぐるっと縁取る黒い線=パフリング(purfling)が,本来は黒くて薄いリボン状の板を象嵌したものだが、激安の場合は印刷か書いたものだ.

また,そのパフリングの部分は,本来なら上板がかなり彫り込まれて,ずーっとくぼみになっていて,その分楽器の外縁はせり上がってるくらいでなければならないが,激安はそのへんが平坦である.プレスだから手で彫るような細かい造形はできないのだろう.

塗装もつや消しで,バイオリンらしい透明感と深みのある色合いではない.同じメーカーが同価格で,カラーペンキを塗って仕上げてたものを出してるくらいだから,そもそもが木目のプリント合板なのかもしれない.

これではさすがに,バイオリンの名に値しないと言われてもしかたがないが,音は気に入ってる.最初からオペラ的な美声ではなく,浪花節のだみ声が気に入っていたのだが,むしろだんだんこなれた,いい音になってきているような気がする.

音といえば,激安バイオリンはすぐ音が出しやすくなったような気がする.からっ下手からのスタートなので確かなことは言えないが,こなれるまでに時間がかからなかった.すぐに毎日調律しなくても音程が変わらなくなり,多少松脂が薄くなっても,するすると音が出るようになった.あくまで推測だが,高価な楽器は,慣らし運転の期間にもう少し手こずるのではないかと思う。
多分,きちんとした職人の手作りのものに比べると,その分寿命が短いのだと思う.楽器全体にかなり強いテンションがかけられ続けているので,昔ながらの素材や工法を使わないものは,突然どこかが割れたり裂けたりしてもしかたがない.

まだ自分でわからないだけで,他にも欠点はあると思うのだが,一方なんと自分向けの楽器だろうとも思う.あともう少しの間がんばって音を出してくれればそれでいいし,他人に譲るようなものではないから,最後は捨ててもらって何の惜しげもない.あたら高価な新品を手に入れて,下手なせいできちんと慣らしが行われずに,ポテンシャルを引き出せないまま終わらせてしまうのに比べれば,ずっとましなことをしていると思う.

次回「荒くれ男のバイオリン」(8/15公開予定)
乞うご期待!

チェロの製作動画

YOUTUBEには,バイオリンの製作動画がたくさん上がっているのでいちいち取り上げなかったが,このチェロ製作動画は工程が丁寧に描かれているのでご紹介.

工程はバイオリンと全く同じようだが,大きい分だけ何をやってるのかわかりやすい.
それにしても,こういう店で職人とあれこれ議論しながら試奏してみたいものである.

次回「激安バイオリン細見」(8/11公開予定)
乞うご期待!