情報大航海時代

情報大航海時代という言葉がある。インターネットの情報の海に乗り出し、新しい大陸を見つける時代だということらしい。かつて羅針盤の発明により、大海原の向こうまで航海が可能になり、大航海時代が訪れた。新しい航路や大陸が次々に発見され、新しい産物が持ち込まれ、経済も文化も加速した。

が、それは「乗り出した」側からみた歴史で、乗り込まれた側からすれば、そこは新大陸ではなく昔からあった自分たちの土地で、昔ながらの生活があったのだが、珍しくて便利な品物と引き換えに、貴重な産物や資源を二束三文で手放した。挙句の果てに、先祖伝来の土地から追い出され、「居留地」を与えられて「保護」されながら暮らすことになってしまった。当たり前だが、大航海のチャンスは、大船団に投資した者だけのもので、原住民が大航海に乗り出せたわけではなかったのである。

情報大航海時代である現代では、大規模なIT投資を行う企業がある一方、貴重な資源や産物とガラス玉を交換してしまう、原住民の役割の人がいる。そしてそれはどうも、我々自身らしい。

インターネット時代の初期には、ネット上のサービスが今ほど整っておらず、なにもかも自分でしなければならなかった。が、言い換えればそれは、我々自身が大航海に乗り出せた時代だったということだ。が、現代は

  • 便利なサービスを、当初無償または非常に安く提供し、生活に浸透したところで有料化、値上げする。
  • 登録するのはたやすいが、解約する場合は煩雑でまぎらわしくする。
  • 必要のないサービスをインストールさせる。
  • 必要以上に高度な機能を盛り込んだ新バージョンを次々発表し、更新させてその費用を請求する。
  • サービスの利用と引き換えに、個人のサイト閲覧履歴、携帯端末の移動経路等を収集する。
  • 当初優良なサービスだったものが、悪意のある業者等に買収され、迷惑広告などを送るツールになってしまう。

など、我々原住民から時間や個人情報、無駄な費用を掠め取るためのサービスが、大船団となって押し寄せてきている。しかもこれらはまだ上品な交易商人たちだが、海にはハッカーやウィルスという海賊船もうじゃうじゃと増えてきた。
ではどうしたら良いのか。「情報大航海時代」という言葉は、10年ほど前に自分たちも航海に出ようという意味合いで言われていたらしいが、もう小舟が通用する時代ではなくなった。OS、ブラウザ、メーラー、ワープロ、表計算などをすべてオープン・ソースに切り替え、プロキシを通して足跡を消しながら、まるで奥地に引っ込んだ裸族のように、ひっそり生き延びるしかないのかもしれない。