李子柒

中国のvlogger李子柒(染か?)のvlogである。

中国の田舎の伝統的な暮らしと食を、vlogger自ら体験する様子を、音楽とライブ音で淡々と映し出していく。個人撮りという触れ込みだそうだが、もちろん脚本家、カメラ、スタイリスト、その他諸々のスタッフによる努力の結晶だ。

我々と同世代の中国人は、伝統的な生活文化はすべて遅れていて、近代的なもの西欧的なものこそが正しいという姿勢だった。むしろ自分が中国の伝統文化を擁護していたくらいだったのだ。社会が本当に近代化すれば、当然その反動で昔ながらの文化の良さが見直される。このvlogもそんな流れの中から生まれたのは分かるが、さすが中国4千年、一度伝統文化や地方に目を向ければ、無数の引き出しと奥行きがあることを見せつけられた。

いわゆるきれいなものだけを見せるのではなく、汚れたものも美しく映し出している。例えば、熟れすぎて地面に落ちたトマトを映したり、はじけてしまった実もそのまま収穫したり、土のカマドの周りに虫がうごめいていたり、使い込んで傷だらけのまな板に新品じゃない包丁をふるったりと、おそらく今の日本ではNGにしてしまう絵も堂々と見せる。
簡単なテロップ以外に説明はなく、作業も説明的ではなく所作の流れを見せる。こういうコンセプトだから、スポンサーのタイアップ商品が写り込んだりもしない。何気ない映像のために多くの予算と労力をかけているのがわかる。現代中国の豊かさを見せつけられているようだ。

またタレントがいい。媚びない美人すぎないペラペラしゃべらないのも好感が持てるが、作業に慣れている。スピードと力があり、作業と作業の間に流れがある。古い厨房や調理器具を使い慣れた主婦のように振る舞う様子は、映画でもなかなかお目にかかれない。練習と撮り直しを繰り返して、初めてできる映像だ。

日本が景気が良かった時代、あえて昔ながらのシンプルな生活文化を見直そうというコンセプトの雑誌記事やCMが作られた。素朴に見えるが、美術的価値のある調度や食器を使うなど、細部まで金をかけていた。すぐ真似できそうでいて、偽物や安物を使うと、単に貧乏たらしく見えるギリギリの世界観を追い求めていた。そんな時代のメディアを思い出す。やっぱり中国は景気がいいんだなあ。

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マジ、ラブ!フォーレバー!!

最近、ホールでのコンサート風景を見ると、グランドピアノの観客側の側板に、大きくメーカーロゴがついてることがある。マーケティング的には効果的だが、その調子でコントラバスの胴や、指揮者の背中にもロゴを入れて行ったとすると…。広告を見せながら楽隊が演奏するなら、オーケストラはチンドン屋への道を歩み始めたとも言える。そもそも本当のクラシックファンなら、どのピアノの巨匠がどのメーカーを好んでいるかくらい知ってるし、ロゴなど見なくても音を聞いただけで、「おや、今日はスタインウェイではなく、ベーゼンドルファーだね」とわかるものなのだ。(そうだよね、私はできないけど)

ここまでは前ぶりで...この夏墓参りをした際、他家の墓でとんでもないものを見た。新しい墓の基盤に、設置した石材店の名前の金属プレートがついているのである。これにはさすがに眉を顰めざるを得なかった。そもそも墓というのは、塔を模したものである。塔とは法華経見宝塔品(ほけきょうけんほうとうほん)にあるように、釈迦牟尼仏が教えを説いた時に現れた「宝塔」のことである。いわばお釈迦様の教えの象徴ともいうべきもので、本来仏教徒というのは、塔を立てて中に仏舎利(釈尊の遺骨)を安置して供養しながら、そこを道場として修行に勤しむ人のことを言った。
だから日本でもお寺には塔が立っている。たとえ五重塔のような建造物がなくても、建物のどこかに小さな塔が安置されていて、中に仏舎利が納められている。この仏舎利も印度から伝わってきた本物の釈尊の遺物である。つまり、熱心な信徒の方が宝塔を立て、釈尊と同じように故人の遺骨を安置した、というのが墓なのだ。

それを他人が勝手に名前を刻み込むのは、世界遺産の五重塔に、アイアイガサだの「〇子マジ、ラブ!フォーレバー!!」と書くのと同じくらい見識のないことである。バチが当たるとは言わないが、その会社が廃業した後の数百年後まで、世界中の仏教徒の笑いものになる。ピアノの場合は、チンドン屋が下賤な職業というわけではないので、どうぞご勝手にという感じだが、石材店は、客が同じような馬鹿げたことをやろうとしたら止める立場であって、自分からそれをやっちゃいけない。

Parker Solar Probe

人類史上、最も太陽に近づいて観測する「Parker Solar Probe」計画の宇宙船が無事発射した。この宇宙船には、世界中の有志の名前を宇宙船内のメモリに記録していて、太陽まで運んでいく。私の名前もその中の一人だ。宇宙船はこれから(もうすでにに?)金星に近づいて、その重力を利用して速度を落とし、太陽に引っ張られるコースに入る。

地球から最も遠くまで行った宇宙船はボイジャー、最も遠くまで行って帰ってきたのは日本のはやぶさ、人間を乗せて最も遠くまで往復したのはアポロ。今回のParker Solar Probeは、最も高速の宇宙船ということになるらしい。これは、宇宙船は打ち上げ前は地球と一緒に太陽の周りを猛スピードでまわっていることになるので、慣性力が働いて、なかなか回転の中心に向かっていけないからだそうだ。
また、太陽に接近するだけあって、耐熱には最新の技術が用いられている。基本的には太陽に向かって耐熱素材の盾を構えるようなしくみらしい。この盾の後ろ側には、宇宙船がむき出しな感じで身を隠している。宇宙だから灼熱の大気などないので、太陽側だけ守れば良いのかもしれないが、すごく心細い感じだ。

昨年はミサイル騒ぎで、今年は台風、地震とさんざんだが、この小さな宇宙船のことを考えると、少し晴れ晴れした気分になる。太陽の高さから見れば、人類は皆同じ星の同居人、まさに「知己友人」である。