ネットビジネスのお手本

まずは動画を見て欲しい。エロール・ガーナーの名曲Mistyの演奏である。楽器店の中で、なかなか達者なテナーの演奏を披露していて、こんな風に吹けたらと思う人も多いだろう。

実はこの動画では、2種類の商品の販売している。ひとつはこの演奏で流れているバック演奏のデータ。説明欄のリンク先へ行くと、日本円で700~800円程度だった。もうひとつは、演奏しているテナー・サックスそのもの。年代物のセルマーで、プレミアがつくのかどうかわからないが、少なくとも数10万円はする。演奏可能であることはご覧の通りで、1台売るためならデモ演奏くらいわけはない、というわけである。

考えてみると、これらすべてをたった一人でもできる。年代物のサックスの専門店の主人なら、吹けて当たり前だが、MIDIソフトを使えばバック演奏データも作成できる。
バック演奏データは見本を聞かせないと買ってもらえないが、聞かせると無料でダウンロードされてしまう。これならテーマの音が入ってしまっているので、自分用のバックには使えない。
演奏そのものも考えられていて、十分ジャズ・フィーリングがありながら、かなり楽譜に忠実で変なクセがない。アドリブ部も同様である。アーチストとしてはやや気迫に欠けるものの、「そう思うなら、ご自分でどうぞ」というわけである。いい曲があったらちょっと買って練習しようかな、という気になる。再生回数も数十万回になっている。本当に一人のしわざかどうかはわからないが、知る人ぞ知るような小規模ビジネスが、ソフトウェアとネットの力で世界市場を見込むというのは、ネット・ビジネスのお手本のようだ。

入れ墨の方お断り?

銭湯や公衆浴場でおなじみの表示だが、海外の観光客がとまどうことのひとつだそうだ。タトゥーは個人の自由だし、犯罪者扱いされるようなことではないはずだということらしい。言うまでもなく日本では暴力団員の象徴で、かつては島送りの前科者の証でもあった。

一方で、日本の刺青は世界最高峰の高い芸術性があり、江戸時代の火消しは競ってシャツのような刺青を入れて、火事場で諸肌脱ぎで大見得を切っていた。島帰りの入れ墨だって、人に見られないように隠すもので、風呂屋でひけらかして大暴れするものじゃなかっただろう。自分では決してやらないが、もともとは風呂屋にも入れないほどのことではなかったような気がする。

見て分かる通り、この動画の登場人物は腕に入れ墨をしている。ひげとも相まって不潔感さえ感じられ、日本の料理番組ではありえない起用だ。だが、配信サイトでは他にもタトゥーの持ち主が動画をアップしていて、特に大工や鍛冶屋などが多く、いたって真面目な仕事ぶりを紹介している。それも多くが腕にタトゥーを入れてるところから、自慢の商売道具である腕を飾り立てているのではないかと気がついた。海外の職人さんが来日して、誇りであるタトゥーのせいで、ヤクザあつかいされれば、確かに寂しい思いをするだろう

もともと世界屈指の派手な入れ墨文化のあった日本が、公共の場から締め出したかったのは、入れ墨ではなく暴力団や暴力行為のはずだ。それを入れ墨に罪を着せてしまったところに、海外とのちょっとした行き違いが生まれたのだろう。国際化時代ならではの問題だ。いっそ解禁してしまって、欧米のごつい職人さんたちが出入りするようになれば、唐獅子のお兄いさんも無茶はしなくなるような気もする。