我々の若い頃は、シンプル・イズ・ベストの時代だった。過剰な装飾は古臭く、田舎臭い。ギリギリまで装飾をなくしたデザインが都会的、近代的だとされた。そして家電、インテリア、ファッション、それらの広告もシンプルなデザインに置き換わっていった。今でもユニクロやアップル製品には、シンプル・イズ・ベストの伝統が受け継がれている。
シンプルデザイン指向は製造・販売側の都合でもあった。装飾を施せばその分コストがかかるだけでなく、消費者の好き嫌いが別れてしまう。大胆なデザインは大流行するかもしれないが、総スカンを食らうかもしれない。景気もかつての勢いが失われたなかで、大量生産で低価格な商品を大量販売するためには、製造コストや消費者の好き嫌いのリスクが少なさそうな、シンプルなデザインを出すしかなかった。
が、そういう時代だからなおのこと、良い装飾は良いものだと思う。動画は高級注文家具の職人のものだが、重厚なマホガニーに施された大ぶりの装飾は、大胆ながら落ち着いた風格があり、また伝統の味わいを持ちながら全体のモダンなシルエットに溶け込んでいて、多分長年使っても飽きがこないだろうと思う。多分買うのは無理だが、見るだけでも目の保養だ。

こんなふうに腕のある職人が、目のある客に直接アピールして販売できる現代は、実に良い時代だと思う。