難曲大陸

世の中には、プロでもなかなか弾きこなせない難しい曲がある。クラシックに多いようだが、ポピュラー音楽でも、普通の曲を超スピードで演奏するなど、わざわざ難しくすることがある。一発腕のいいところをアピールしなければならないプロなら、それも大事だが、難曲イコール名曲でも名演奏ではないだろう。だから、一般の楽器愛好家がそういうものを目指しても、あまり意味がないと思っている。

テクニックのない人が演奏する、昔ながらの単純素朴な曲でも、十分演奏者の情感は伝わってくる。良いなあ、上手いなあと感じることも多い。音楽で大事なのはテクニックではなく、誰でも手が届く部分にあるだろうと思う。だから私は、なるべく簡単な旋律を楽しそうに弾いてみせる指導者や、プロじゃない人の演奏動画を探して参考にしている。特にプロ以外の演奏は、動画時代以前にはなかなか接する機会がなかったので、しかめっ面のプロのより音楽の楽しさが伝わってきて新鮮だ。そういう音楽に接したいので、気に入ったパブリックドメイン曲を集めたりしているのだが。

テクニック偏重の風潮は根強い。何オクターブの音が出るとか、目が見えないのになんちゃらの曲が弾けるとか、言葉や数字で表しやすい部分がもてはやされるのは、メディアの影響だろう。そういうもので表せないから音楽にするのだと思うのだが。

フィギュア・スケートも以前は芸術点というのがあり、基準はちょっとあやふやではあるものの、確かに芸術だと感じさせる演技も多かった。それがいつの間にか解説者の技名の連呼が目立つようになった。「トリプルなんちゃら!」とか、ヒーローアニメのお約束のように叫ばれても、見ても区別などつかない。音楽の流れと無関係に全力で突っ走り、唐突に飛び上がってるだけのように思えてしまう。私以外の人は区別がついているのかもしれないが。

私のやりたいのは、簡単で、しかも年季が入るほどに味わいを増すような曲なのだが、試しに「難曲」の反対語を調べたのだが出てこなかった。「易曲」では、造語としても出来が悪い。そこで反対語として、「演奏が易しくてなおかつ味わいのある、ほつとするような曲」という意味の、「ほっ曲」というのを考えたのだがどうだろう?