楽器を始める適齢期

楽器は子供時代から習わせないと身につかない、という意見を聞く。確かにクラシックの巨匠たちはみんなそうだろうが、一方で、無理に習わせられて楽器嫌になった者も多い。巨匠の数と楽器嫌いを比べれば、楽器嫌いのほうが圧倒的に多いだろうから、子供時代から習わせるのは科学的に間違いということになる。そもそも楽器は楽しみのためのもので、忍耐力養成器ではない。

では10代はどうだろう。この時期に楽器を持つ人は多いし、ポピュラー音楽の大スターでも、この時期にスタートした人は多いだろう。が、必ず周囲に自分より上手いのがいる上、さほど「モテる」わけではないと気がついて、なお練習を続けられる者は少ないだろう。「そんなことをしてる暇があったら、勉強しなさい」という親の意見は、おおよそ正しい。

20代、30代は、仕事が面白くなってくる一方、パートナーとめぐりあう時期である。学校だけではわからなかった本当の勉強を身につけるのも、この時期だ。それまで楽器をやってた人でさえ、疎遠になるのが普通だ。聞くことはあっても、とても練習どころじゃない。

40代、50代は、家族、地域社会、職場、日本経済など、あらゆるものに対する責任を果たす時期だ。遊んでいてもらっては、誰かが必ず困ったことになる。ただし、楽器を買うだけなら大賛成だ。楽器を好きな人にとっては、眺めているだけ、磨いているだけでも、他には代えがたい喜びが湧き上がってくるはずだ。いつかは練習に打ち込める日が来ることを夢に見て、過酷な日々を乗り越えられるのなら、安いものである。

そして、60代。結論から言うと、楽器を始める適齢期である。リタイアした人もそうだが、現役の人だって、若い頃のような無我夢中で仕事に打ち込んでるわけじゃない。そんな歳になってまで、毎日死に物狂いというようでは、職場や顧客が不安でしょうがないだろう。
一方、若い頃と違って、血迷ってスター街道を夢見てしまうことがない。武道館だのオペラ座など、頭にかすめさえしない無心の境地で練習に打ち込める。さらに音楽に無縁の仕事人生であっても、打ち合わせの喫茶店のBGM、TVドラマその他諸々で、ありとあらゆる音楽を聞いている。その膨大な音楽体験は、幼児や10代とは比べ物にならない。しかも、様々な困難をくぐり抜けてきた経験に比べれば、楽器の練習はずっと楽で、予想よりずっと早く成果が出るはずだ。何より、車やマイホーム、子供の教育費に比べれば、桁違いに安い。幸せには代償が必要だと知り抜いてる身には、申し訳ないくらいの少額で、幸福感と高揚感を得るだろう。

3 thoughts on “楽器を始める適齢期

  • 2月 18, 2019 at 08:13
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    どんな楽器もそれぞれ苦労しているんですね。そういえばアコギだって調律は気候次第ですからね。それに比べれば繊細なバイオリンの方が大変かも知れませんね。

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  • 2月 17, 2019 at 23:52
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    昨日の土曜日と日曜日の今朝郊外で超安とトランペットで少し練習をしました。楽曲と言うより正確な音出しの練習にとどめました。トランペットにとって冬の戸外は厳しいです。バルブがスムースに動かないどころか最初ケースから出したら凍って動かないこともしばしば。手の温度やホッカイロで温めて初めて動き出す始末です。潤滑オイルの代わりにブランデーと言う手もありますがお酒に縁の無い僕はなかなか買う気にもなりません。それにしても楽器もちゃんとしたものは高価ですから安サラリーではなかなか手が届きません。十代の頃には始めて1年や2年で吹奏楽に参加できたのに、今では相当手間取っている自分に戸惑っています。もう少し楽しみながら演奏できるまでには、未だしばらく掛かりそうですね。

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    • 2月 18, 2019 at 07:44
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      冬は楽器に厳しいですね。バイオリンは調律が狂って、楽器があったまるまで戻りません。自然素材の鼓はもっと大変らしく、冬の舞台では、出番直前まで専用の火鉢で皮を炙り続けてるそうです。ガーナの太鼓は生まれが生まれなので寒さに弱いです。皮はこわばって音が出ないし、無垢の丸太くり抜きなのでアフリカの高温多湿の真逆の環境で割れが来る可能性があります。そこで、植物性のラードのようなベタベタの油を胴にべったり塗り込めたりします。

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