弦が切れた!

まだ新品同様のヴィオラの弦を切ってしまった.調律の際にバイオリンの弦を弾いて大まかな音を確かめながら締め上げていたのだが.ヴィオラの最高音弦を調律するときに,うっかりバイオリンの最高音を聞いて合わせようとしてしまったからだ.

それくらい分かるだろうと思うかもしれないが,締め上げていく途中に,時々「バキッ」「メキッ」というような音がするので,そっちに気をとられてしまうのだ.もちろん壊れたわけではなく,ちょっとしたキシみ音くらいなのだろうが,共鳴するようにできているから,ひどく怖い音に増幅される.デジタルチューナーだけだと,オクターブ違いでもOKがでてしまう.以前はそれで調律してしまった.バイオリンの弦を弾く音で合わせるようにしていたのだ.

切れた弦をよく見るとスチールの針金を,さらに極細の針金で巻いてあった.ちょっと見にはただのスチール線のようにみえるほど,精密な仕上がりである.ギター弦だと,細いものはただのスチール線だったと思う.そこまでしてあるのは、やはり表面にひっかかりがほしいからだろうか.弦は,昔は動物の腸(gut)から作ったので,ギターのナイロン弦はいまでもガットと呼ばれている.もしかして焼き肉のガツも?と思って調べると,確かに腸から来ていた.ガツガツ食う胃袋だからなんだと思っていたが.

ちなみに,こんなふうに物事を結びつけて考えるのは,年寄り脳の特色らしい.記憶力が減少する分,既に知っていることの関連性に頭が働くので,案外高齢者の実用新案申請者も多いという.年寄り脳も捨てたものではないが,人によってはかなり突飛なものまで結びつけてしまうので,「ムー大陸人は宇宙からやってきて,その子孫はフリーメイソンとして,今でも世界を支配している」というような荒唐無稽な話を真に受けてしまう人も少なくない.

次回「G線上のアリア」(7/30公開予定)
乞うご期待!

ブリッジ再び

新しく来たヴィオラは、弦が太い上に高く貼ってあって押さえにくい.そこで新しいブリッジを削って,弦を低く張る事にした.ついてきたブリッジは,高さが高いが角度が良いので,新しいブリッジのやや低い位置にあてて線を引き,それを目安に削ることにした.
久しぶりにブリッジ削りができる.私はバイオリンの演奏ではなくブリッジ削りが趣味なのではないか,というくらいこの作業が気に入ってる.広い場所が必要ないし,何か他の用事ができたらすぐ中断できる.多分こういうちまちました作業は日本人に合ってると思う.気兼ねなく手を加えられるというのも,安い楽器ならではだ.ただし本格的な演奏家はやっちゃいけないと思う.以前削った時には指に刃物を突き刺した.絆創膏を貼れば日常生活には全く支障のない軽症だが,さすがにバイオリンは弾けなかった.
プロは夏でも手袋をして寝て,指を守るとかいうから,ブリッジ削りなどぜったいにやってはいけないだろう.そう思うとブリッジ削りは,多少怪我しても惜しげのない,ヘボ奏者ならではの楽しみといえるかも知れない.

仕上げたブリッジはすんなりフィットして,音もそう悪くはないようだった.早く仕上がりすぎて物足りないほどだ.あらためてビオラを弾くと,まだまだ指の力が弱いらしく,押さえきれない時もある.だが,バイオリンに比べて弦同士の間が開いたので,隣の弦に触ることが少なくなった.また,バイオリンの場合は一番低い第4弦が遠くて弾きにくさがあったが,サイズの大きいビオラのほうが,なぜか4弦すべてに指が届きやすいような気がする.ただし高音部は指が届きにくいし、力もいる.小指は押さえきれない感じだ.

bridgefitting

ちなみに写真はブリッジの設置面を削りだす道具.楽器の上板に紙ヤスリを置き,ローラーによって一定の角度が保たれた道具でブリッジを固定し,スライドさせて接地面を削る.買ったわけではないが,ネット上にはこういうちょっと邪道な感じのツールがいっぱいあって面白い.それだけみんなが苦労しているのだろう.これ自体はあまりうまくいかない感じがするが.
ヤマハのような大手なら,上板の面をスキャンして立体データを記録し,ロボットにブリッジを削らせることもできるはずだが,職人を育てる方に力を入れてるかもしれない.
また,バイオリンやビオラのメーカーのサイトには,楽器本体のほか,弓や弦,肩当てやケースなど,たいがいのアクセサリーも同時に販売しているが,ブリッジだけはない.最初はなぜだか分からなかったが,そういう調整も工房に持ち込んで欲しいという,プロの矜持なのだと気がついた.

次回「弦が切れた!」(7/26公開予定)
乞うご期待!

ヴィオラの音出し

バイオリンやヴィオラが鳴るのは弓に擦り付ける松脂の力だ.毛のキューティクルとかなんとかのせいではない.今回,とどいたばかりのヴィオラを,つい松脂をつける前の弓で弾いてしまったが,全く音がしなかった.スーッ,スーッとすれる音だけ.弓をこする楽器は世界各地に昔からあったと思うが,松脂を塗ることを考えだしたのは,どういう人間だろう.

ともあれ,初のヴィオラは堂々として深みのある,大きくてヤバい音がでた.バイオリンをいじっていたので,最初からためらいなく弾けたせいもあるが,激安との違いかもしれない.

密かにヴィオラに期待していたことは,バイオリンの場合は半音の距離が指1本の太さ程度しかなく,狭い範囲に指がごちゃごちゃになるので,ヴィオラなら余裕ができるのではと考えたのだが,これはそのとおりだった.その分,音程差が大きい時は指を広げるのが大変になるが,これはがんばりどころだろう.また音程が低いから,張りがゆるくなるのではと思っていたが,これは大間違いだった.太い弦がバイオリン以上にきつく張ってあって,おさえるのがかなりしんどい.そこで、ブリッジを低く削って,少しでも弦とフィンガーボードの間を狭くし,押し込まなくても抑えられるようにしようと思った。
finetuner

また,調律の微調整ネジ(日本ではアジャスター、海外ではファインチューナーと言う)は,最高音弦に1個だけだが,他の3本がとてもじゃないが頭のペグだけで調整できない.渾身の力を込め,指先が痛くなるほどねじり込むが行き過ぎる,でも戻すと緩みすぎる,というのを延々と繰り返した.全部の弦にファインチューナを付けると多分格好わるいのだろうが,背に腹は代えられない.さっそく新しいブリッジとファインチューナーを取り寄せることにした.

 

次回「ブリッジ再び」(7/22公開予定)
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