オフィス麦茶

家庭であれ仕事中であれ、暑い真夏のひとときに出される麦茶は格別だ。冷蔵庫では水出し麦茶のポットが、一日何回転もする。そのすべてが夏の健康に欠かせない水分なわけだが、その分を清涼飲料水などで補給してしまうと体が大変なことになるだろう。ただしそこまで飲み続けると、風味の乏しい水出しがだんだん色のついた水道水のように思えてくる。そこで袋ごと煮出してみたら、ずいぶん風味が良くなったが、さらに塩を入れてみた。塩分摂取についてはいろいろなところで高血圧リスクが言われているが、摂取の目安と言われる10gも、実は科学的根拠がないらしい。それより塩分やミネラルの不足のほうが危険なはずだ。ということで、パックを煮出しながら少々塩を加えたところ、一段と風味が増した。水だけではわかりにくかった煎り麦の風味が、塩のおかげで引き立ったというか、そもそも体が欲していたものが入ってきた感じである。(※ただし当社比なので、やるなら自己責任で)

そこまでくれば、昔ながらに煎り麦を煮出してはどうか。以前試したことがあったが、今飲んでも別次元の味だった。我々世代であれば、子供時代に飲んでいた味、冷蔵庫で冷やして無くても十分に美味かったあの味そのもの。ペットボトル麦茶でも追いつけない、時空を超えて蘇ったうまさである。もちろん茶がらの始末は面倒だし、熱いさなかの麦茶の煮出しは厳しい。ならばそれをオフィスに届けるビジネスを始めたらイケるかもしれない。専用冷蔵タンクをレンタル定位教師、残量センサーをつけてネットで利用状況データを収集。需要のピークやタンクが空になる時間の予測と製造量、製造開始時間の逆算、配送ルート最適化などをAIに計算させる。検索したが、ヒットがない。たかが麦茶だが、この暑さでは、ついフラフラと契約してしまうのでは。

自家製マスタード 付記

自家製マスタードの記事へのアクセスが最近増えてきたので、付け足しを少々。多くの人が読むとなると、「室温で空気にさらして発酵させる」作り方を吹聴するのが、ちょっと心配になってきた。出来立てのマスタードは辛味も匂いもインパクト不足で、苦いことさえある。空気と触れてやや茶色になってはじめて、豊かな香りとともに脳天を突き抜けるような爽快な辛味臭が生まれる。なので記事に書いたように室温で発酵させればまちがいなく旨くなるが、あくまで自己責任で。出来立てを瓶詰めして冷蔵庫に入れておいても、そのうち良い風味が出てくるので。

マスタードを使った自家製マヨネーズは重宝する。私は卵は全卵、酢は米酢を使う。ワインビネガーやリンゴ酢なども試したが、日本人だからなのか、市販品に慣れたせいか、コクが感じられない。また、油はサラダオイルで十分だと思う。オリーブオイルを試したこともあったが、クセが出てきて使い道を選ぶようになってしまった。市販品と同程度の硬さに仕上げようとすると、必要な油の量に驚くかもしれない。油が少ないとゆるくて流れるが、さっぱりした風味になるし料理に使ってしまえばゆるさは気にならない。ちなみに、マヨづくりはミキサーを持ってることが大前提だ。泡だて器で作るのは油が多いほど過酷で、市販品なみにするなら筋肉痛の覚悟が必要だ。
自家製マヨはメリットが多いが、問題は容器だ。ビンなどにいれると、使い勝手が悪くて仕方がない。市販品の握って押し出して、使い捨てればいい便利さにはちょっとかなわない。

スパイスコーナーで売っているマスタード・シードも、間違いなく発芽してスプラウトになる。販売者のサイトでは、専用のオーガニック種子を使わないと何かまずいことが起きるかのような事が書いてあるが、マーケ的にそう書くだろうねとは思うが、種子そのものをすりつぶすマスタードはどうなんだと言うことになる。スプラウトはすぐできるが、シャキシャキとした歯ごたえとピリッとした刺激を兼ね備えたものを期待していたが、1本が短くてしかも細いので醍醐味がなく、まとめて口に放り込んでもモソモソする。自家製スプラウトの栽培用として売っているのが、ブロッコリの種子ばかりで、マスタードがないのはそのせいかもしれない。


人生のカルボナーラ

この歳になると、それほど意識してやったわけではなくても、気がつくと長い間続けてきたことがあるものだ。それが何十年と続けていたのなら、「人生のXX」と名付けてもいいだろう。例えば鼻歌を歌うクセは「人生のハミング」だし、散歩する習慣があるならそれはもう「人生の散歩道」と言う具合に。

そこで人生のカルボナーラである。私はこれまで実に多くのスパゲティ・カルボナーラを作ってきた。プロではないので正しい作り方かどうかは知らないし、究極のとか言うつもりはないが、年季だけ言えば若いイタリア人など足元にも及ばない。まさに人生のカルボナーラである。
ちなみに私のバイオリン歴もそろそろ10年。歳だけはとっているので、なんとかハンデ込みで「人生のテネシー・ワルツ」と称してもいいのではないかと思うが。それはさておき...

■人生のカルボナーラの作り方
パンチェッタを作る
パンチェッタは豚のバラ肉の塩漬け。ベーコンでもいいのだが、市販品はよほどのものでない限り熟成が効いていないので、自作してきた。
1、豚バラ肉のブロックに大量の塩コショウをまぶし、キッチンペーパーとラップで包んで、2~3日冷蔵庫に保存する。バラ肉は特に大きなブロックを買う必要はなく、スーパーに売ってるサイズで十分。そのほうが乾燥や熟成が早く進む。また、どのみち塩で水分を抜くのだからドリップが出ていても構わない。脂身は多い方がよく、半分くらい脂でもいいくらいだ。つまり超見切り品を選ぶのがコツだ。
さて、バラ肉からはかなり水分が出るので、キッチンペーパーは毎日取り替える。ペーパーが湿気っぽい程度しか水が出なくなったら、冷蔵庫から取り出ジ、片側に紐を通して室内に吊るす。塩漬けができていればしずくは落ちないので、場所はどこでもいいだろう。このときに水で塩抜きするレシピもあるが、私はそのまま吊るしている。パンチェッタをそのまま食べるなら塩っぱいだろうが、料理にしか使わないなら、塩がついたままのほうが室内干しでも安心な気がするからだ。吊るす期間は1週間程度だろうか。

パンチェッタを炒める
できたパンチェッタは拍子木に刻み、フライパンで弱火にかける。ちゃんと脂身の多いバラ肉を選んでいれば、最初にフライパンに油をひく必要はない。また、赤身の部分は焦げついてくるかもしれないが、これは旨味そのものなのでそのままにする。

スパゲティを茹でる
鍋に多めの湯を沸かしてスパゲティを茹でる。塩を入れるかどうかについては議論があるらしい。入れたほうが無難な気はするが、どちらでもかまわないだろう。親指の爪の先を中指の第2関節の内側に当てた時にできる輪がちょうどスパゲティの一人前だが、これはあくまで私の指で、私の一人前を計るやり方だ。
イタリア人はスパゲティを折って茹でるのを嫌う。日本人が土足で畳の上に上がられるのを嫌うのと同じくらいだというから、彼らの前ではやってはいけないだろう。私は時々やるが。日本人にとって麺といえばそば、うどん、ラーメンなど、湯で上げをすぐ食べるものがほとんどなので、長いスパゲティが半分だけ湯に使った状態を見ると、茹でムラができそうで気になってしまうが、スパゲティは茹で上げでは食べない。まわりに水分と熱があればいずれデンプンがアルファ化するので、常時湯に浸かっていなければならないというわけでもない。後工程でソースに絡めながら熱が通れば十分なのである。

ソースを作る
パンチェッタを炒めていたフライパンに、スパゲティの茹で汁を入れて手早くかき混ぜる。入れる量とタイミングは少々難しいが、スパゲティがあまり茹だってないうちに多めの茹で汁を入れるのがコツだ。ここで湯と脂、茹で汁のでんぷん質が混ざってクリーム状に乳化した液体が、カルボナーラのソースになる。この技法は和食や中華にはないが、南欧などでは一般的らしい。

ソースとスパゲティをあわせる
ソースのなかに、茹でたスパゲティを入れる。一緒に茹で汁が入ってしまってもかまわないし、まだスパゲティが固いタイミングでも構わない。ソースと一緒に懸命にかき回すことで、より一層ソースのとろみが増す。

卵を入れる
上述のクリーム状のソースが残ってるうちに火を止めて、よく解いておいた卵を入れすばやくかき回す。卵は全卵であり、生クリームなどは入れない。カルボナーラ(炭焼き職人風)というくらいで庶民的な料理だろうから、卵の白身や生クリームを残したりしないと思うからだ。仕上げに黒胡椒をかける。これも炭焼き職人風(飛び散った炭の粉が降り掛かってしまう)の名前の由来である。

粉チーズをかける
料理は以上だが、食べるときには粉チーズをいやというほどかけるのが大切だ。どれくらいかと言えば、皿の上が真っ白になるくらい、スーパーで売ってる小さめの円筒形の粉チーズなら、2~3回で使い切るくらい。和食で出された料理に卓上の醤油をかけ回せば作った人に失礼だが、スパゲティは違う。粉チーズは調味料ではなく、しっかりタンパク質をとるための素材のひとつだ。

こんな文章を最後まで読んでくれた人がどれだけいるかわからないが、実際のカルボナーラを作るのはいたって簡単だし、食べるのはすぐだ。長々と退屈なようでも、あっという間にすぎないとは、まさに人生そのものである。