Google Street View

初めてストリート・ビューが登場したときは、自宅玄関まで写っていて驚いたが、海外から買い物をする場合など、生産者や販売者の住所を実際にその目で見ると、信頼度などがなんとなくわかった。これはなにかに活用できるはずだと、とりあえずあちこちの都市を見て回って歴史を感じさせる建物のハードコピーをとり、看板の出ている店などは店名からウェブサイトを検索して、外観とサイトのデータベースを作っていった。おかげで世界中の初めて見る都市でも、地図を見ただけで繁華街はもちろん、高級住宅地や要人、セレブの住む場所がなんとなくわかるようになった。ちなみに交通の便の良い郊外にあって、交差する道がなく、先が行き止まりになっているような箇所は、セレブゾーンか重要施設がある。立派な建築があるはずだが、大抵ストリート・ビューが入っていけないか、高い塀や植木があって中が見えない。

そのうち、中国で注文住宅の設計と施工管理を請け負っている日本人と組むようになった。中国は急速に金持ちが増えた時期で、競うようにモダンな豪邸が建っていた。が、現地の大工は、どんなにモダンな外観でも、入るとすぐ広い土間になっていて、四隅に階段がある伝統的な間取りの家しか作れなかった。そこに知人が日本のようなモダンな間取りの住宅を提案したのである。
ストリートビューが禁止されてるので、私が日本から世界中の豪華な住宅の画像をZIPして送り、知人が図面を書いて戻ってきたものを私がCGパースにして再度送った。現地では、まだまだ個人住宅のプレゼンにまでCGが使われてなかったので、いいペースで大きな仕事を獲得できた。また、都市部のマンションでも、室内を日本風に作り変えるのが流行っていたが、これもまた知人とCGパースのタッグで、敵なしだった。

当時の日本はすでに「失われた時代」に入っていたが、手つかずの大市場に競争相手なしというのがどれほどすごいか。そして、個人や小規模の事業者は、誰よりも早くそういう早くポジションを獲得しなくてはならないこと、大手企業や社会の風潮の後追いでは生きていけないことを、身にしみて知った。

HACCPのサンマ

目黒のサンマという落語の演目がある。日頃安全管理されすぎて味も素っ気もないものばかり食べていた大名が、目黒で庶民と同じサンマの塩焼きを食べて大感激する話だ。誇張はあるが、実際の大名の食事も美食とは程遠いものだったらしい。出典は忘れたが、江戸時代の初期、将軍に拝謁するため江戸城に集合した大名が持ち寄った弁当を食べることになったが、上杉家当主の持ってきた弁当には鮭の塩焼きが入っており、それが珍しいと大名同士で味見をしあったという記録がある。

戦国時代が終わったばかりで、侍社会もまだ質実剛健だった話だが、江戸時代が進んでも大名の食事は安全第一なだけでなく、好き嫌いも言えず、決められた時間に決められた量だけ食べておかわりもできず、残しでもしたらたちまち医者に診させられたらしい。サンマを蒸してから毛抜で小骨まで抜いてから供されたという落語も、あながち嘘ではなかったようだ。

で、HACCP(ハサップ)である。NASAが定めた食品製造の衛生管理手法で、宇宙飛行士に万が一の食あたりなどがないように定めたものだ。さまざまな食品製造工場がこの基準に合わせて操業しているが、このたびさらに、漬物製造でもHACCPの採用が義務付けられるらしい。莫大な設備投資が必要になるだけではなく、材料の扱いから温度など、漬物屋で修行したこともないNASAの素人が決めた基準を守れという。地域のお婆ちゃんが納屋みたいな場所で作ってたおいしいいぶりがっこは売れなくなり、消費者はリアルな大名の食事を強いられる。ということでタイトルをなんとかサゲにつなげたが、なんともおあとがよろしくないようで...。

今日は大晦日

今年も様々なことがあった。特にネット関係では、大手企業が次々と攻撃を受けたのを始め、自分宛のメールにもぬけぬけと官庁や公共性の高い企業名を名乗った詐欺メールが増えた。米大統領選挙の年はネット上で激しい攻防が行われていると聞くが、そのとばっちりは各方面に及んでいると思う。

また、犯罪ではないがIT化そのものの限界を感じることが増えた。アウトソーシングが叫ばれた頃から、ITは企業の社内業務を体よくIT企業に押し付けるという意味合いが大きくなってきたが、近年はその業務コストを顧客に押し付ける形でのシステム化が増えてきた。要は面倒くさい操作が増え、人間の対応が激減した。

年を取って変化についていけない部分もあるものの、かつて新製品、新サービスが登場するとその分必ず生活が便利になり、快適になった時代を体験していると、今登場するITサービスは、消費者のベネフィットに逆行しているものさえあるように感じる。
今年、熊本の公共交通が乗車料金のカード化をやめる決断をした。おそらく国が後押しして進めているであろうキャッシュレス化に背いていくのは大きな決断だっただろうと思うが、人口そのものが減少している地方では、交通機関をカード化にしたところで乗客増が見込めるわけではない。さらには、カード化のための設備とシステムの導入や維持管理、バージョンアップなどにコストがかかりすぎて、組織内部のコスト削減にすらなっていないのではないかと思う。今年あたりは、戦略的な目標はないがシステム化できる余地があるからする、というやり方の限界が来たような気がする。

1年を振り返れば更に犯罪だの戦争だのと楽しくない話題はきりがないが、実は来年にはささやかなお楽しみがある。元日付けの記事にして、すでに予約投稿済みなので、明日が来るのが楽しみだ。