ドメイン解放大作戦

あるサイトのドメインが、ドメイン業者にロックされた。ブロックリストのサイトに登録されているという理由で。事前に警告は来ていたがGW中のことであり見過ごしてしまったという。解除の手伝いをしたので、その顛末をご紹介したい。

ブロックリストは、世界中の100社近いセキュリティ業者による安全性の判定を集めたもので、ドメイン名やURLを入力すると、それぞれの業者による「phishing」や「clean」などの評価が一覧表示される。今回の場合は10社ほどの警告が表示されていた。そこでさっそくサーバーのサポートと連絡して不審箇所を取り除いた後ドメイン業者に連絡したが、まだブロックリストに載っていると繰り返すばかりで、解決のヒントももらえない。なので自力で解決法を探すしかなかったが、それからが苦労だった。

解決法はリストに載っている業者に1社ずつ連絡して、サイトが浄化されてることや誤った「陽性」の判定を再チェックして貰うこと。だが、これはIT関連業界に共通する傾向だが、サイトに問い合わせ用のメールアドレスやフォームをわかりやすく明示していないところが多い。まずはQ&Aを読み、続いてAIの応答を読んで始めてサポート宛の送信フォームのアドレスが判明する。人材不足とネット関連トラブルの増加、そして未経験なユーザーの増加などでサポートは危機的な状況なのかも知れない。思いつきだけの低レベルな問い合わせは、途中でくじけて断念して欲しいといわんばかりだ。
国内のドメイン業者でさえそんな状況だから、海外のセキュリティ業者のサイトはもっとすごい。問い合わせフォームがものすごく深い場所にあったり、それらしいリンクが自社製品の注文ページに誘導されていたりする。また、あるにはあるが、どの自社製品の顧客であるか選択する項目が記入必須で、しかも「その他」や「非顧客」の選択肢がなかったりする。

そこでChatGPTに問い合わせてみたら、業者ごとの問合せフォームやメールアドレスを見つけ出してくれ、具体的なURLの解除願いの英文文例まで作ってくれた。さらに、上記の選択肢がない問題でも、とりあえず何でもいいからどれかの製品を選択した上で、コメント欄に「実は顧客ではないが、間違った登録を解除して欲しい」と書くのが正解だと教えてくれた。小さなことだが、相手の意向を無視する発想で、日本人の苦手なアプローチである。

ドメインを停止されたままでは判定もできないので、ドメイン業者に一時的に解除してもらい、その間にセキュリティ業者に申告するのだが、受け付けられてから長い業者で10日以上、問題が発生してからは1カ月かかってようやく解除された。この間、この問題がセキュリティ業界全体による、マッチポンプに思えてしかたがなかった。もともとこれらの業者は世界中に17億あると言われるウェブサイトを常時チェックしているわけではなく、できるはずもない。なので他の業者の報告をそのまま引用したり、外部からのタレコミに頼っている。解除要請も、オーナーではない私も行える。つまり何の根拠もなく特定サイトを告発することも、怪しいサイトを健全と判定させることもできる構造だ。

さらにセキュリティ業者サイトは、関連サービスの広告で満ち溢れている。なので汚染の判定解除を引き伸ばすほどオーナーがじれて、「一気に解決サービス」や「リストアップを直ちに伝えてくれるサービス」を購入する可能性が高くなる。それが狙いとは言わないが、専門家ならその構図に気づかなければいけないわけだから、気づいてて放置しているのかと勘ぐってしまう。

方やサーバーのサポートは万全だった。10数年以上24時間365日のサポートを受けてきた業者なので信頼はしていたが、案の定1時間程度でチェックし終えて対応済みとの連絡がきた。また、ドメイン業者にロックされている状況を伝えると、リストサイトでブロックしている数は減りつつあり、残りは2社ほどであとはすべてクリーン判定をしていることを示してきた。1社でも残っていればロックし続けるのはやりすぎなので、一時的にでも回復してもらうべきだというのである。無法地帯と化したネットで、「今そこにある問題」と取り組む技術者と、マニュアル対応の日本人窓口スタッフの違いを感じた。

バンカーバスター? チャイナバスターでは?

21日、米軍がイランの核施設を爆撃した。横田基地から飛び立ったB2爆撃機が、地中深くまで貫通するバンカーバスターを投下したという。横田基地が発信地ということに驚いてすぐ大圏航路(※)を確認すると、直行した場合北京の上を通ったことになる。もちろん通ったとは言ってないし、グアムあたりを経由したのなら話は違ってくるが。そのへんは詳しくは言ってない。

中国がこれに抗議すれば、むざむざ上空の通過を許したことを認めたことになる。上空通過ではなく、爆撃そのものに対する抗議でも、ああやっぱりと思われてしまうかもしれない。とりあえずスルーしてそのことに注目させないようにするのが最適だろうが、アメリカはそれを許してくれない。さっそく今最も懸念されている、イランによるホルムズ海峡封鎖への対応を、中国に「相談」したらしい。

イランの核装備を阻止し、中国を牽制し、ホルムズ海峡の封鎖を防ぐ。エネルギーを中東に依存し台湾問題を抱える日本にとっては良いことづくめとあって、NATO会議への出席をとりやめ、状況を静観することにしたらしい。唯一の被爆国として、核関連の戦争行為にはことごとく反対するとアピールし、国際世論を牽引することもできたはずだが。

※大圏航路の確認はこちらで。

クモの巣作戦

6月1日、ウクライナ軍は国境から数千キロも離れたロシアのベラヤ空軍基地など数か所を爆撃し、長距離爆撃機など1兆円を超える被害を与えた。トラックで運ばれたドローンによるその作戦は、「クモの巣」と名付けられた。
強力な長距離兵器を過信するロ軍は、距離さえおけばそれを持たないウ軍の攻撃はないものと思い込んだが、ウ軍から見れば「長距離兵器の集積場所に満足な対空防御がない」状況が出来上がっていた。その結果が戦史に残る大成功となった。

ウ軍は、引き続き4日にはプー氏肝いりのケルチ大橋を攻撃(3回目)。さらに黒海上空では、軍用機でデモンストレーション飛行を行い、マップサイト上に航路でウクライナのシンボルである「トライデント」を描いてみせた。また、ウ軍が意図したことかどうかはわからないが、トラック作戦を恐れるあまり、モスクワに向かうトラックのチェックが厳重になり中国からの物資が停滞してしまった。

同じトラック輸送作戦はロ軍には困難だ。偉大な独裁者にふさわしくない、みみっちい輸送作戦を提案するのは危険だし、失敗すれば目も当てられない。また、基地の手薄さに気がついたとしても、防御に莫大な費用をかける進言はできなかったろう。戦争という、衆知を集めさまざまな才能を投入しないと危険な大事業を、個人の判断力の範囲に矮小化させてしまう。独裁の弱さだ。

またこの戦争開始直後にストリート・ビューで確認したが、モスクワからウクライナへ向かっては比較的広い道が通っているが、ウクライナ領内に入ると、狭い田舎道になってしまう。戦車なら1台ずつ縦列に進むしかない。あらかじめ大砲の着弾点を決めておいて、通過したらスイッチを押すだけで一方的に被害を与えられる。一般に、戦車部隊は4キロ進むごとにどれか1台が故障すると言われる。すぐに立ち往生して集中砲火を浴びたことだろう。

昔から、戦略的失敗は戦術的努力では補えないと言われるが、10倍とも言われる両軍の被害の差はまさに戦略の差による。道路から独裁制の弱点まで、ウ軍の戦略はさまざまな要素を利用しつくす。クモの巣作戦はウクライナ戦争の分岐点になるかもしれない。ゼレンスキー大統領は各国の支援を訴え続けているが、当初は大国の侵略に対する悲鳴だったものが、今は資金と物資さえあれば勝てると言ってるように聞こえる。クモの巣作戦は、強かな戦略とそれを実現できる技術、士気、練度など、多くのものを証明してみせたと思う。