永平寺問答

福井県の永平寺で、修行僧が体験修行中の女子高生のおしりを触る事件があった。メディアは神聖な場所で何事だ、寺は責任を取り、犯人は追い出してしまえと言わんばかりだ。さて、面白いことになったと思う。

永平寺の山門(正面入口)には、「葷酒(くんしゅ)山門に入るを許さず<生臭物や酒を持ち込んではいけない>」という掲示がある。では、こっそり酒を飲んだ修行僧はどうなるか、追い出されるか、程度に応じて罰を受けるのか。実はこの問いに考え込んでしまうのは現代人だけで、江戸時代の人間なら、だれでもすぐ答えられた。
「そういう輩のための修行の場だろう」と。

仏教の修行場は、品行方正な人間を集めて何かをするところではなく、煩悩にまみれた者を真の仏教徒である僧侶に育てる場だ。なので江戸時代なら、女性が参拝以外で入ることはできないから、まず同じような問題は起きない。修行途中で煩悩まみれの若い男たちのなかに女子高生を放てばどうなるかわかりきってるからで、そういうのを「知恵」と言った。しかも初歩的な知恵で、仏教の知恵はもうちょっとハイレベルだ。でも現代なら男女同権がどうとかで、女人禁制にはできないだろう。そこで公式謝罪がどうの、刑法がどうのという話になりかねない。そういう状態を「知恵が回らない」と言う。
さらに江戸時代なら、起きたとしても、寺がより一層修行に専念させるといえば、相手も納得する。僧侶に対するリスペクトがあるからだが、伝統的な仏教文化なんぞクソ喰らえの時代に、果たして永平寺はどう答えるか。さらに言えば、煩悩まみれの現代人はどこで修行すればいいのか。現代版禅問答は、なかなか難しい。

呪術開戦

タイ、カンボジアの紛争が、驚きのスピード停戦となった。だがカンボジアは呪術師を使ってタイに強力な呪いをかけ、タイもまた呪い返しを行うという、超自然レベルでの戦いが始まったそうだ。戦争よりずっとマシだから、「どちらも頑張れ!」である。

さてその昔、本物の呪術師に教えを受けたことがある。ガーナ人の伝統的なドラム奏者、アジャ・アディが、渡辺貞夫のツアーに参加中、地元でワークショップを開いてくれたのだ。アジャはドイツなどでも演奏活動を行っているが、ガーナでの立場はメディスン・マン。薬師のように聞こえるが、太鼓や祈祷などで病気を癒す祈祷師、呪術師、シャーマンである。教わったのはドラミングの基礎だけで、ガーナ国外では超自然の力は働かないと言っていた。そう聞いて安心なような、少し残念なような気がしたものだ。

呪術による治療など時代遅れに思えるが、今では保健も適用される漢方や鍼灸治療も、かつてはまじない同然に思われていた時期がある。さらに患者へのメンタルケアの効用など、「病は気から」の重要性も高まっている。魂を揺さぶるドラムの演奏が、病気のケアに有用であっても不思議ではない。へんてこ健康法に傾倒するのも良くないが、治るならなんでもいい程度に考えるのは、悪いことではないはずだ。

さてさて、アメリカの戦略国際問題研究所のシニア・アドバイザー、エドワード・ルトワックは、「戦争にチャンスを与えよ」という挑発的なタイトルの著書を書いた。地域の紛争に外国が支援や保護をすると、かえって長引いたり難民キャンプがテロリストの再生産の場になったりする。何千年にも渡って受け継がれてきた、地域には地域の解決法があるはずだから(それが紛争だとしても)それに任せよう。要するに放っておこうという内容だ。最近のアメリカのウクライナやイスラエルへの対応には、そんなそっけなさを感じることもある。そのせいかウクライナも、戦うのは自分たちでやるので、武器弾薬、資金面で助けてくれとしか言わない。

これは日本人も気にしなければならないところだ。台湾問題に巻き込まれたら、アメリカは駆けつけてくれるかという議論があるが、そりゃあ無理だと思う。「何千年もの歴史ある国同士なのだから、伝統的な紛争解決策があるだろう」と言われるだけだ。そうなると自分たちで戦うから、せめて武器と資金だけでもとしか言えないだろう。なんとか、陰陽術対仙術での代理戦争でお茶を濁せないだろうかと思う。

過熱するAI ー 温度的な意味で。

新しいAIデータセンター建設のニュースで、規模が4.5GW(ギガワット)とあった。GWというのは生半可な電力ではないはずなので、ChatGPTに聞いてみたところ、瞬間的に最大4.5ギガワットが必要になる施設という意味で、それを供給するには原発なら4~5基、大型火発3~6基、メガソーラー数十~数百機は必要で、日本の一般住宅300万世帯の年間電力量に匹敵する規模らしい。同じレベルで電力を消費する施設は、他のAIデータセンターががあるだけで、ほぼ存在しない。他分野の施設としては最大でもアルミニウム精錬施設の1GW(メガワット)程度らしい。こうなると電力コストも莫大で、年間数千億円規模の契約だという。

そして電力コストの半分は、冷却のために消費される。ハイスペックなPCはCPUが相当な熱を持つので、空冷用のファンがいくつもついているが、AIデータセンターは、このCPUよりさらに高性能なGPUやTPUが無数に密接して稼働するので、膨大な熱が発生する。空冷では冷却しきれず水冷や、サーバーをまるごと水に沈めてしまう液浸冷却なども行われている。立地もカナダやアイスランドなどの寒冷地や、海中に建設された施設もあるという。

家庭や事業所での省エネなどどこ吹く風のような話だ。これについては現在は過渡期であり、既存の技術で力押しに建設を進めているフシがあるが、さらに高集積なTPUの開発やAI管理による使用電力の最適化なども進められてはいる。AIデータセンターの電力消費は、資源と環境の面からも最前線の課題だ。誕生したばかりのものだけに、スケールの大きな知恵熱かもしれない。