マスタード(ホール)のテンパリング

最近当サイトで、自家製マスタードの記事がじわじわアクセス数を伸ばしている。せっかくなら何か追加情報をと検索すると、「マスタードのテンパリング」という言葉を見つけた。テンパリングと言えばチョコレートを練り上げる工程だと思っていたが、いろいろなスパイスで香りを立てるために行うらしい。それも、スパイスカレーのレシピ中にあった。この言葉も最近見かけるが、これまでのカレーとどこが違うんだろう。当たり前じゃないの?と思うが。

ということで、未知の技術であるテンパリングを試してみた。やり方はオリーブオイルでじっくり煎ることらしいが、うっかり乾煎りしてしまったのでまずそちらをレポート。

乾煎り中のマスタードからは、期待したほどスパイシーな香りはしてこない。香ばしい香りではあるが、大豆を煎ったときとそれほど変わらない。ブラウンマスタード程度に色づいたので、これまで同様に酢につけてみたが、煎らなかった場合より酢を吸い込んでくれない。そのままミキサーでペースト状にして味見すると、なるほど、マスタードの味に香ばしさが加わった。悪くない感じだ。ただし個性的になった分、和洋中何にでも使えるというわけにはいかなくなった。従来のマスタードに何割か混ぜて使うか、他のスパイスを足して作ってる場合にはテンパリングしたほうがいいかもしれない。

続いてオリーブオイルで煎る、正しいテンパリングでの仕上がりだが、こちらはそのままかじってみてもペーストにしても、油のコーティングで包まれてしまって風味が立ち上がってこない感じだ。オリジナルのレシピでは、このままスパイスカレーに入れるようだが、ホールの状態よりさらに固くなったマスタードが口に残るのではないかと思う。いずれにせよ、この方法は今後やらないと思う。

自家製マスタード 付記

自家製マスタードの記事へのアクセスが最近増えてきたので、付け足しを少々。多くの人が読むとなると、「室温で空気にさらして発酵させる」作り方を吹聴するのが、ちょっと心配になってきた。出来立てのマスタードは辛味も匂いもインパクト不足で、苦いことさえある。空気と触れてやや茶色になってはじめて、豊かな香りとともに脳天を突き抜けるような爽快な辛味臭が生まれる。なので記事に書いたように室温で発酵させればまちがいなく旨くなるが、あくまで自己責任で。出来立てを瓶詰めして冷蔵庫に入れておいても、そのうち良い風味が出てくるので。

マスタードを使った自家製マヨネーズは重宝する。私は卵は全卵、酢は米酢を使う。ワインビネガーやリンゴ酢なども試したが、日本人だからなのか、市販品に慣れたせいか、コクが感じられない。また、油はサラダオイルで十分だと思う。オリーブオイルを試したこともあったが、クセが出てきて使い道を選ぶようになってしまった。市販品と同程度の硬さに仕上げようとすると、必要な油の量に驚くかもしれない。油が少ないとゆるくて流れるが、さっぱりした風味になるし料理に使ってしまえばゆるさは気にならない。ちなみに、マヨづくりはミキサーを持ってることが大前提だ。泡だて器で作るのは油が多いほど過酷で、市販品なみにするなら筋肉痛の覚悟が必要だ。
自家製マヨはメリットが多いが、問題は容器だ。ビンなどにいれると、使い勝手が悪くて仕方がない。市販品の握って押し出して、使い捨てればいい便利さにはちょっとかなわない。

スパイスコーナーで売っているマスタード・シードも、間違いなく発芽してスプラウトになる。販売者のサイトでは、専用のオーガニック種子を使わないと何かまずいことが起きるかのような事が書いてあるが、マーケ的にそう書くだろうねとは思うが、種子そのものをすりつぶすマスタードはどうなんだと言うことになる。スプラウトはすぐできるが、シャキシャキとした歯ごたえとピリッとした刺激を兼ね備えたものを期待していたが、1本が短くてしかも細いので醍醐味がなく、まとめて口に放り込んでもモソモソする。自家製スプラウトの栽培用として売っているのが、ブロッコリの種子ばかりで、マスタードがないのはそのせいかもしれない。


自家製マスタード

自家製のマスタードはうまい。輸入もののマスタードは甘さや香りが良いが、あまり辛くない。日本のカラシに慣れていると、どうも辛さが物足りないのだが、自分で作るとちゃんと鼻に通るようなものが作れる。

材料はマスタード・シード(カラシの種)と、酢、塩だけ。ガラスの保存容器などを煮沸消毒し、マスタード・シードを入れて、塩、酢を注ぐ。マスタードは酢を吸って倍以上に膨らむので、分量は容器の1/2以下にする。酢の分量は、最初はマスタードより水面がちょっとだけ高くなるくらいに。1時間もすると酢を吸い込んでマスタードの表面が露出するので、またちょっとだけ酢を足して放置する。これを何度か繰り返すと、それ以上吸い込まなくなるので、ミキサーでペースト状にする。粒の残り具合はお好みで。

ちょっとずつ酢を足すのは、そうしないと限界まで膨らまないため。以前最初からたっぷりの酢を入れたら、あまり膨らまず、ミキサーにかけてもかなり硬い粒が残ってしまった。酢は米酢を使うとうまい。洋風の食品なのでリンゴ酢やワインビネガーのほうが合うかと思ったが、味わいが足りなかった。塩は腐敗防止に、念のため入れている。酢が効いてるので、入れなくても大丈夫だとは思うが。
また、酢を吸わせているときにクローブやシナモンなどを入れておき、ミキサーの前に取り出して香りをつけると、洋風の上等な感じのマスタードができる。それらの香辛料と一緒に砂糖を加えるレシピもある。が、入れなければ和洋中何にでも使える。

ミキサーにかけてペースト状になったら、皿などにあけて、なるべく空気に触れるようにさせて室温で数時間~1日程度放置し、発酵させる。マスタードは発酵食品なのだ。室温に放置するのはちょっと不安だが、室内に目を刺すような揮発成分が立ち込めるので、まず、あの中で繁殖できる細菌はいないだろうと思う。

自家製マスタードのからしバターを塗ったサンドイッチは絶品だ。ドレッシング類も切れ味が出てくるし、おでんにも使える。ワサビや唐辛子よりも使い勝手がいい。ちなみにマスタード・シードは発芽する。水につけておけば、スーパーなどで見かけるスプラウトができる。

⇒ 自家製マスタード付記(2024/4/30)
⇒ マスタードのテンパリング(2024/9/17)