万里の長城が作られた理由は、北の蛮族の襲来を防ぐためではなく、饕餮(とうてつ)という凶悪な生物が、数百年に一度の繁殖期に大群で人類を襲うのを防ぐため。という設定で制作されたスペクタクルアクション映画。ロマンスも政治ドラマも、人間ドラマもなく、ただ人間対饕餮の攻防戦を描いただけだが、それこそがこの映画の見所だ。差別や反戦、人生の葛藤がないと「内容がない」と決めつけるような人にはお勧めしない。
主人公(マット・デイモン)はヨーロッパ人だが、中国で発明されたという「火薬」の秘密を盗み出そうと万里の長城にやってきて、捕らえられる。火薬の発明というから、時代は唐だろう。また饕餮というのは、紀元前の青銅器の取っ手部分を横から見た時に描かれている怪物の顔(饕餮文)。とはいえ、この名前は後世の古美術関係者が名付けたもので、実のところ何を表しているのか、そもそも顔なのか、そういうふうに見えるただのデザインなのかもはっきりしていない。鬼瓦や狛犬のような、魔除けだろうと言われているだけである。
映画では、その饕餮がライオンより大きく凶暴な肉食獣として描かれ、しかも女王に率いられて地を覆うほどの大群で長城に押し寄せる。長城は実物よりはるかに巨大に描かれていて、しかも数百年の間考え抜かれた武器や戦法で、饕餮を迎え撃つ。城での攻防でありながら、上から弓や投石を打ち下ろすだけでなく、戦士が降りていって敵を倒すさまざまな戦術も考案されている。そのどれもが魔法じみた空想の産物ではなく、当時のテクノロジーでもできたかもしれないものばかりである。その威力や精度の限界が、ストーリーのリアリティを生んでいる。
また、主人公は白人なのだが、忍耐強く準備をし、技と工夫を凝らす中国人と、あらんかぎりの体力、腕力、瞬発力で、汗みどろ血みどろで戦う欧米人という対照がリアルだった。饕餮と生身で戦う場面がアジア人だったら、華麗だが華奢な体格のせいで迫力が出なかっただろう。また、「話し合いもへったくれもない凶悪な北からの侵略者」ということでは、時節柄、思うところがあった。

饕餮(とうてつ)?初めて知りました。万里の長城をグレイト・ウォールとタイトルをつけられると何か宇宙的な映画のイメージになりますね。日本には海と言う外堀がありますが,現代の戦いには万里の長城の役目は果たせませんね。兵士同士が戦うための自衛隊の肉弾戦の訓練も何故か空しい時代ですよね。