クモの巣作戦

6月1日、ウクライナ軍は国境から数千キロも離れたロシアのベラヤ空軍基地など数か所を爆撃し、長距離爆撃機など1兆円を超える被害を与えた。トラックで運ばれたドローンによるその作戦は、「クモの巣」と名付けられた。
強力な長距離兵器を過信するロ軍は、距離さえおけばそれを持たないウ軍の攻撃はないものと思い込んだが、ウ軍から見れば「長距離兵器の集積場所に満足な対空防御がない」状況が出来上がっていた。その結果が戦史に残る大成功となった。

ウ軍は、引き続き4日にはプー氏肝いりのケルチ大橋を攻撃(3回目)。さらに黒海上空では、軍用機でデモンストレーション飛行を行い、マップサイト上に航路でウクライナのシンボルである「トライデント」を描いてみせた。また、ウ軍が意図したことかどうかはわからないが、トラック作戦を恐れるあまり、モスクワに向かうトラックのチェックが厳重になり中国からの物資が停滞してしまった。

同じトラック輸送作戦はロ軍には困難だ。偉大な独裁者にふさわしくない、みみっちい輸送作戦を提案するのは危険だし、失敗すれば目も当てられない。また、基地の手薄さに気がついたとしても、防御に莫大な費用をかける進言はできなかったろう。戦争という、衆知を集めさまざまな才能を投入しないと危険な大事業を、個人の判断力の範囲に矮小化させてしまう。独裁の弱さだ。

またこの戦争開始直後にストリート・ビューで確認したが、モスクワからウクライナへ向かっては比較的広い道が通っているが、ウクライナ領内に入ると、狭い田舎道になってしまう。戦車なら1台ずつ縦列に進むしかない。あらかじめ大砲の着弾点を決めておいて、通過したらスイッチを押すだけで一方的に被害を与えられる。一般に、戦車部隊は4キロ進むごとにどれか1台が故障すると言われる。すぐに立ち往生して集中砲火を浴びたことだろう。

昔から、戦略的失敗は戦術的努力では補えないと言われるが、10倍とも言われる両軍の被害の差はまさに戦略の差による。道路から独裁制の弱点まで、ウ軍の戦略はさまざまな要素を利用しつくす。クモの巣作戦はウクライナ戦争の分岐点になるかもしれない。ゼレンスキー大統領は各国の支援を訴え続けているが、当初は大国の侵略に対する悲鳴だったものが、今は資金と物資さえあれば勝てると言ってるように聞こえる。クモの巣作戦は、強かな戦略とそれを実現できる技術、士気、練度など、多くのものを証明してみせたと思う。

2 thoughts on “クモの巣作戦

  • 6月 15, 2025 at 08:58
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    真珠湾攻撃を思い起こしますね。航続距離の短い艦載戦闘機に爆弾まで積んでアメリカに近い真珠湾に現れるなど誰も想像できなかったでしょうね。アメリカどころか私の父親などはトラトラトラの打電中に、呑気に東京湾でハゼ釣りをしていた訳で、兄は艦載機で訓練はしていたとしても戦場を知らない状態だったでしょう。ましてや軍備も充実していた大国アメリカはまさか奇襲されるとは思っても居なかった筈ですね。ウクライナもキャンピングカーか何かでドローンを運んだのでしょう。ライトバンでも運べる攻撃用ドローンは航続距離も必要無くしかも人命を犠牲にする特攻でも無い利口な方法ですね。大きな戦闘機や爆撃機やミサイルに比べれば如何に安価にしかも効率よく攻撃できるか明らかですね。物量に頼る大国と、頭脳で切り抜ける小国の違いがハッキリして居ますね。

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    • 6月 18, 2025 at 12:15
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      戦争は数の勝負なのは本当で、ロシアが一時はキーウまで進撃しながら簡単に押し返されたのは、要はウ軍がロ軍以上の軍勢を用意して待ち構えていたかららしいです。その後もロ軍は大戦力を一気に投入すればいいものを、1000人被害が出たら1000人追加するというように、同じ作戦を繰り返し、被害を累積してきました。戦争では「戦力の逐次投入はタブー」ですが、軍ではなく秘密警察上がりのプーさんが固執したのかも知れません。また、日々の微妙な戦果から情勢を見通すのは軍人にしかできないので、もし劣勢が覆せないようなら和睦や降伏を勧告するのも軍人の役目です。誰かさんは、次々将軍を解任してますから、そういう大局観もないのでしょう。ビジネスの世界でも、経営者が大胆な投資を怖がってついつい「逐次投入」をし、ジリ貧になるケースが多いです。流石に本物のリアルタイムの戦争は、教訓に満ちてますね。

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ゼロ戦パイロットの弟ゼロ戦。 へ返信する コメントをキャンセル

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