ウィンストン・チャーチル

第二次大戦時のイギリス首相、チャーチルが行った、歴史を変えたと言われる3つの有名な演説をテーマにした映画だ。主演は名優ゲイリー・オールドマン。と知って、体格と顔の、余りの共通点の無さに驚いたが、それを乗り越えて見事にチャーチルを生み出し、アカデミー主演男優賞とメイクアップ賞を獲得した。

チャーチルは当時としても飛び抜けた主戦派で、第一次大戦では閣僚の座を辞してまで戦場で戦うことを選び、また、インドの独立を嫌ってガンジーを攻撃したほどの、徹底した帝国主義者でもあった。映画では彼が、ナチスドイツの猛攻を前に新首相に就任し、講和を求める前首相のチェンバレンを退け、イギリスに徹底抗戦の道を歩ませるという物語である。
山場は、講和か抗戦かで悩むチャーチルが初めて地下鉄に乗って、ナチスと戦おうという市民の思いに触れる場面と、さらに議会で抗戦を訴える演説で、野党を含む全員の喝采を浴びる場面だろう。現代の日本人からすれば、演説の巧みさで国民を殺し合いに駆り立てたかのようなストーリーに、違和感があるかもしれない。ヒトラーもチャーチルもどっこいどっこいじゃないか、というような。

少々映画からは離れるが、これにはヨーロッパの歴史が背景にある。国と国、領主と領主が長い間戦い続けていたヨーロッパでは、戦争に勝った者がすべてを得て、負けた者はすべてを差し出すことを繰り返してきた。つまり、敗戦国が再び繁栄を取り戻すためには、戦争を起こして勝つしかなかったのである。第一次大戦も同様で、敗戦国のドイツには莫大な賠償金が課せられたため、乱暴な言い方をすれば、困窮のどん底に突き落とされたドイツ国民は、ヒトラーでなくても、戦争に勝利させると約束する者の登場を待ってた状態だったのである。
勝者のイギリスからすれば、ドイツの軍門に下れば、自分たちがやったことをやり返されるわけだから、どんなひどいことになるかはっきりと理解していた。市民までが「奴隷にはならない」と叫ぶのは、文字通り奴隷にされる可能性があったからである。

第二次大戦後の連合国による戦後の世界体制づくりでは、この教訓が生かされた。日本ほか敗戦国に対する賠償金を放棄し、国際的な復興援助まで行われた。ここで人類は、敗戦による国の困窮から脱するために開戦するという、無意味な繰り返しから脱却したのである。チャーチルの演説が歴史を変えたというのは、そのことを指している。

One thought on “ウィンストン・チャーチル

  • 1月 20, 2019 at 06:41
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    今でも日本は大戦での隣国への負債に苦慮していますね。昨日も韓国人の方と少し話をしましたが、その点、一番の敵国だったアメリカとは同盟国としてお互い賠償など求めるどころか、きれいサッパリ水に流しています。これもアメリカの敗戦国に対する復興支援がそうさせたのでしょうね。最近ではきな臭い話題もあるものの、我が国は二度と同じ過ちは起こさないと願いたいですね。

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