ゴジラ-1.0を一緒に行った友人のお勧めで、同じく山崎貴監督作品を2作連続で観た。「アルキメデス…」は戦艦大和の建造をめぐり、時代遅れの大艦巨砲主義(*)を阻止しようとした設計者を、「永遠の…」は、生きて帰ることだけを願いつつ、神風に志願した零戦パイロットを描いた作品だ。ゴジラ-1.0を観てなかったら、そして推薦してもらわなかったら観る気にならなかったジャンルだったが、日本映画における戦争の扱い方に良い意味の変化が来ていることを感じさせる良作だった。
昭和時代、日本の戦争映画はつまらなかった。戦争の美化も、英霊の侮辱もまかりならんと各方面から責め立てられ、上っ面だけのお涙頂戴反戦作品ばかりだった。戦争は愚行であり暴力にほかならないが、古今東西、エンターテインメントや芸能と切っても切れない関係にある。神話も講談も、詩も歌も、絵画や彫刻も、戦争と恋愛がテーマになったものは、実に多い。
赤穂浪士の吉良邸討ち入りも新選組の池田屋騒動も、武装テロにほかならないのだが、今では血湧き肉躍るチャンバラ活劇である。
以前、沖縄戦の生き残り日本兵の方の話を聞いたが、1㎡あたり4トンの艦砲射撃が降り注ぐ中、右へ左へと駆け回る場面は、語り手も熱がこもっていたし、はっきり言ってスリルとサスペンスに満ちていて興奮した。当事者が語る話でさえそうなのだから、当事者がいなくなった時代なら、戦争もエンターテインメントのネタにしていいと思う。
山崎監督は綿密なストーリーづくりをしているだけに、内容にふれるのは慎みたい。が、両作品に出演し、いずれもストーリーを大きく動かす役目を果たしていた田中泯という俳優が印象的だった。特に「アルキメデス…」は予算決定会議のやりとりがクライマックスなだけに、田中泯の重厚な演技がなければ、ただの低予算映画になってしまったかも知れない。しばらく日本映画を観なかったのでこんな良い俳優さんを知らなかったと、検索してみたら、もともとはチン◯にテープを巻いただけで踊るダンサーだそうで、何と私よりも年長者であった。
いろいろな考えはあるだろうが、せっかくの零戦や戦艦大和をいつまでも負の遺産にしておかず、そろそろエンターテインメント資源に活用してほしい。零戦とムスタングが空中戦したり戦艦大和がぶっ放す、痛快戦争アクションが観たいものだ。そもそもがスターウォーズを観てVFXを目指した監督だそうだから、痛快な戦闘シーンが嫌いな訳がない。でないとハリウッドに先を越されたり、大和ものの最高傑作が宇宙戦艦ということになってしまう。ゴジラ-1.0でも感じたが、山崎作品は日本の戦争映画を呪縛から解放してくれるかもしれない。
*奇しくも両作ともに空母の重要性が鍵になっていたが、実際には空母自体は防御能力が低く、動きの鈍い大きな的にすぎない。戦艦に取って代わるのではなく、従来の艦隊に航空戦力を付け加えるためのもので、むしろそばに戦艦大和がいてくれたほうが、ずっと安心だと思う。飛行甲板に穴が空いただけで戦闘機は飛び立てず、離陸した機は行き場を失って着水しなくてはならなくなるという、リスキーな兵器なのだ。また、日本が空母の重要性を理解できなかったかのように描かれていたが、歴史上、空母を実戦で運用できたのは米軍と日本軍だけである。