福島第一原発事故の真実 / NHKメルトダウン取材班

2011年3月11日の東北大震災による福島第一原発事故のドキュメンタリー。10年の歳月を費やした、700ページを超える大作である。果たして読みきれるか、内容についていけるか挑戦のつもりだったが、誤解を恐れずに言えば「面白かった」。本書はドキュメンタリー調の前半と、検証中心の後半部分に別れていて、特に前半では当時感じた驚きや恐怖感が蘇るようで、迫力があった。

本書では、まだまだわかっていることは少ないことが、繰り返し語られる。「吉田調書」を始め、当時の関係者からの聞き取り記録などが中心で、事故そのものの調査はドローンなどによる遠巻きなアプローチが行われただけだ。やむを得ないこととは言え、例えて言えばマンションで重大犯罪事件が発生したことは間違いないが、隣室や通行人が物音を聞いたという証言があるだけ、現場に誰も立ち入っておらず、鑑識も行われていない状態のようなものだ。

また、気になる点はいくつかあった。事故当時高圧になりすぎた蒸気を外部に逃がす「ベント」作業が行われることになったが、所内の全電源が停止していたため、圧力計などが読み取れず、実際に排気されたかどうか判断ができなくなっていた。本来この作業は建物から轟音と大量の白煙が吹き出すので、計器を見なくても稼働状態がわかるはずなのだが、福島第一では、アメリカの原発では数年に一度行われている定期試験が行われておらず、白煙のことを知るものがいなかったという。他にも本来行うべきだがしないで済ませている試験があるのではないかと勘ぐられても仕方ない。

また、事故前にも他の原発関係者や研究者など、津波のリスクに気づいていた人もいたが、社内や電力業界に残る縦割り体質の弊害で、情報が届かなかったとしている。この記述も気になった点で、何でも縦割りの弊害に結びつけようとする、「マスコミ節」を感じる。
縦割りの弊害を言う人は、「正しい情報が自動的に組み上げられるシステムが欲しい」ということなのかも知れないが、組織というのは縦割りのものなのだ。その界隈で重要な情報を得た者は、その時点で何が何でも上や中央へ情報を届けなければならない責任が生まれると思う。それには勇気が必要だが、社会的な影響の大きなシステムは、何より人の勇気が積み上がったシステムであってほしいと思った。

2 thoughts on “福島第一原発事故の真実 / NHKメルトダウン取材班

  • 5月 1, 2025 at 06:14
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    今朝の道新の一面に泊原発再稼働問題が大きく取り上げられていました。11年もかけての調査結果は素人目には危険な立地とも読み取れますが政府見解では再稼働も可能の様です。しかし最終結論を誰が出すのかの段になって知事は国が決めるべきと逃げ、住民投票に委ねるような動きにも。私は原発銀座の北陸は福井が故郷でしたから原発と絶えず隣りあわせでした。隣町の敦賀の松原海岸へは海水浴に行きましたが、そこから直ぐ近くに原発が見えて不気味でした。水蒸気事故などが起きる度に周囲の住民は不安に駆られました。東北での大震災による福島原発の廃炉作業も未だに困難を極め終わりが見えないまま現在に至っていますね。泊りと言えばかつて広告でお世話に成った北電から当時建設前のアンケート協力要請などもありましたし、現に人形峠からのウラン原石を預けられ本社ショールームに展示の仕事も請け負いましたが、その時点では自分も安全性を信じていた筈です。福島原発がそれらのすべてを覆しました。既に稼働許可が決まったところも有りますが、泊の再稼働は誰が決めるのか?道民の反対で廃炉にするのか?いずれにしてもビルの解体作業の様には行かない現実を誰もが知った今ですが、このまま放置する事も問題を大きくする事になるのでしょうね。これからますます電力を必要とする社会構造になりつつ有りますが福島の困難な廃炉作業は今後の原発依存への警告でも有りますね。

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    • 5月 1, 2025 at 08:29
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      作ったものを使わずに莫大な経費をかけ続けながら、料金が高いとか、千歳にIT工場を作るとか言えなくなってきたということでしょう。福島がなくなった上に温暖化も進むということで、東京圏の電力需要を北海道が担う部分も増えたでしょうし。物価高騰のタイミングで再稼働の是非を問えば、再開が上回るでしょうね。泊は停止中だとしても津波対策をとらないと、福島と同じようなことが起きないとも限りません。また、やっかいもの扱いしてしまうと技術者の質や士気が低下してしまうので、稼働させて監視させるほうがいいでしょう。技術は人間が関与しなくなったらおしまいですから、後年もっと厳しい社会情勢になってから押取り刀で再開、新設などしたらそれこそ危険です。
      福島の場合は、ほとんどがまだ解明されてないので、実は地震の時点ですでに被害が出ていたのではないかというのが、最大のポイントでしょう。今は地震が来たら原発の建物に逃げ込むほうが安全で、原発がつぶれるような規模だったら、道内各地域はそれだけで壊滅だと言ってますが、果たしてそうかどうか。

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