MMDについて

人気キャラクターになった初音ミクは,イラストや動画,CGキャラクターなどの派生物を産んだ.そしてなんと,CGキャラクターの初音ミクを自由に動かせるツールが有志の手で開発され,無料公開された.それがMMD(Miku Miku Dance)である.
http://www.geocities.jp/higuchuu4/

当時CGキャラクターを動かして動画を作るまでには,大変な労力と金がかかった.まずソフト自体が非常に高価で,PCにもそれなりの高いスペックが要求される。それを買えたとしたら,次はキャラクターを立体造形し,続いて色や素材感を決める.ここまででも数ヶ月かかる.そして少しずつ動かしては動画に録画するのである.
ところがMMDは,最初からCGの初音ミクが用意されていて,ユーザーは最後の動きをつけるところだけを楽しむことができるのだ.

私はたまたま相当昔からCGシステムを手に入れていたが,とにかくなんでも100万円からだった.おそらくなんやかやでお買い得の家が買えるほど投資したと思う.会社の経費だからできたようなものだ.そのシステムにも動画を作る機能はあったが,実際作るのは動かない住宅やロゴタイプなどがほとんどで,それとは別な難しさがあるキャラクターづくりや動画制作に使ったことはなかった.だから,開発依頼すれば一千万以上,パッケージを買っても数十万円を下らないソフトが無償公開されたのには,心底驚いた.しかも,動作の最初と最後を指定してやると,中間の動きを自動補完するなど,最新の機能が組み込まれていたのである.

MMDの登場は初音ミク発売の翌年という速さだったが,その勢いのまま,ミク以外のキャラクターや背景,映像エフェクトツールなどが次々公開されていった.さらにロボットや時の人など人間型キャラクター以外に,自動車や飛行機,SLなど、およそ動くものは何でもかんでも公開されていて,ダウンロードしてCG動画を作れる.今ではそれがどこまで行ってるのか,想像もつかない.
現在MMDは,アニメやCG関係の専門学校の標準教材になっている.日本だけでなく,世界中からダウンロードされ,海外の作品も公開されている.

動画は,初音ミクが登場し,音楽や画像,映像などに展開され,全ての人がクリエイターになれる時代を作ったという,GoogleChromeの公式動画である.8/1に誕生日を迎えた初音ミクだが,まだ登場から10年も経っていない.

MIDIの話/初音ミク登場前夜

MIDIの話をもう少し.オーケストラを呼んで,自分の好きなように演奏させてみたい.そんな夢にも思わなかったことが出来るようになる.MIDIを最初に知った人は大抵そう思う.ジャズや歌謡曲のファンでも,なぜか「オーケストラ」が頭に浮かぶらしい.ともあれブキッチョだったり,時間が無い人でも演奏が出来るようになり,音楽の新しい可能性が開かれる.当時誰もがそう思った.

だが,著作権組織はそうは思わなかったらしい.MIDIは楽譜やCDのコピーではないので,例え人気絶頂の流行歌をMIDI化しても,規制する根拠がはっきりしない.一度データ化されると,一切劣化することなくコピーされてしまう.それに恐れをなしてか,徹底的に弾圧を行なった.
MIDI装置を手に入れても,初心者が最初から作曲できるわけではないから,既存の曲のコピーを打ち込む.うまくできれば公開して聞いて欲しい.そんな素朴な気持ちでの雑誌投稿でも,多少なりとも著作権に抵触するものなら,徹底的に潰して回った.おかげで愛好家はやる気がそがれ,MIDI自体が違法なものであるかのようなイメージが作り上げられた.

海外のサイトでは,完全に著作権に触れるMIDI作品が公開されている.取り締まりきれないのと,打ち込みの努力は認めようじゃないかというところだろう.ここまで徹底したMIDI狩りは日本だけの話である.その可能性にかけていたクリプトン社も,さぞかし落胆していただろうと思う.初音ミク登場前夜の話である.

やがて登場した初音ミクは,主にオリジナル曲を歌った.上手い下手はともかく,「売れそうな歌」ではなく,それまでどこにもなかった,若い人の心情をそのままメロディに乗せたような作品が次々人気になり.それを歌う「歌手」もまた人気になっていった.そして,作者同士の了承だけで,曲にイラストや動画が添えられ,総合的なメディア作品に成長していった.