2007年、ディズニー/ピクサーによる、フルCGアニメである。フランス料理への愛情に満ちた、非常に味わい深い作品だった。
監督のブラッド・バードはなかなかやんちゃな人で、2004年の同じくディスニー/ピクサー作品の「Mrインクレディブル」では、冒頭で主人公一家の父親が勤める保険会社が描かれている。満期の保険金支払い担当なのだが、「支払い」とは名ばかりで、難癖をつけて支払わないで済ませる役目だ。年金ぐらしのお年寄りなどには、つい払ってしまうので上司から叱責を食らう毎日。よくそんな描写をしたものだと、驚いた覚えがある。日本では絶対に制作できない。
「レミーのおいしいレストラン」も少々クセもので、大きく評価が別れている。悪い評価のほとんどはネズミが厨房を駆け回り、料理を作るシーンが原因だ。しかも、予想以上に「ネズミネズミ」しているのである。
だがそれこそが主題で、本物のフランス料理であれば、たとえネズミがつくったものであろうと、冷凍食品やマーケで売りまくるアメリカ料理とは比べ物にならない。料理のレシピはフランスの宝で、あくまで忠実につくられなければならないが、同時に、その偉大なレシピに新たな一品を書き加えるシェフは、最大の経緯を払われる。たとえそれがデスミでも。そして、何が本物かそうでないかをを決めるのはフランス人なのだ。そんなメッセージが聞こえてくる。
残念ながら現在では、名の通ったレストランでも仕込んで冷凍したものを使ったり、店の看板であるスープを、業者に外注している。それはもちろん本物ではないし、本物はフランスに行かなければ食べられない。悲しいかな、私には縁のないものだし、そういう限られた場所と文化の中で生き続けているものなのだ。
さて物語だが、料理で言うメインディッシュは料理評論家のアントン・イーゴとの対決だ。EGOなどという名の通りの毒舌家で、主人公が働く店の前オーナーが死に、星を落としたのもこの男が原因である。だが、勝負はあっさりとレミーの勝ち。実はネズミが作っていることを明かされ、新しい店で再スタートを切った時には、しっかり常連になっている。彼もまたフランス料理を愛し、冷凍食品やアメリカ料理を認めないフランス人なのだ。
ラストシーンは、隅々まで主人公の手が届く小さなビストロで、イーゴ氏がお気に入りの料理を味わった後で
「デザートで驚かせてくれ」
というところで終わるが、エンドクレジットを見なかった人は、そのデザートを食べずに帰ったことになる。
ここにある「no motioncapture」の言葉は、エンドクレジットの最後に出るのだが、これには本当に驚かされた。少々くどい説明になるが、「モーションキャプチャー」というのは、人間の役者に演技させた動きをセンサーで読み取り、CGキャラクターの動きに変換する技術である。動作がリアルなうえ、手間もかからない。だが、人間ばなれした漫画チックな動きはできない。
ではそれをしないというのはどういうことかというと、昔のセルアニメ同様、アニメーターがキャラクターの動きを1コマ30分の1秒ずつ、表情から指先まで、チマチマ動かしては撮影したということだ。ごく小さな動きだけを積み重ねて、通して見た時にダイナミックでなめらかな動きになるように、予測しながら動かすのだ。これは一種の特殊能力で、やれる人は限られている。かのディズニーでも、動きをつけるのは大変で、「美女と野獣」では、昔の白雪姫のダンスシーンの動きをそのままなぞった程だ。
というように、エンドクレジットの最後に、おそろしく手のかかった、しかし、さっぱリとした後味のデザートが提供され、この極上のフルコースは終わる。他のディズニー/ピクサー作品では、こういうのは出ないようだから、本作の見所のひとつだろう。