タイトル画像の話/テーブルクロス

絵画の並ぶ回廊に、イスが一脚とテーブル。足元には深くて暗い深淵が...。というちょっと不気味なCGを作ろうとしたが、深さがうまく表現できなかった。多分、画角や照明の当て方の問題だろう。現実にはありえない光景はCGの真骨頂だが、見たことのないものに対する、作者のイメージ力の限界かもしれない。

さて、技術的にはテーブルクロスが今回のポイントで、シワのより具合など、手作業では造形が厄介な作業を、Blenderが自動的に行なってくれたもの。「物理演算」という技術である。CG空間は上も下もなく重力のない世界で、鉄塊でも空中に置けばそのまま落ちることはない。布のテーブルクロスも同様で、何もしなければいつまでも四角いままで空中にあるが、「物理演算」の機能を使うと、重力があるかのように下に落ちて行って自然にテーブルを覆う。シワのより具合など、実際に覆ったらどうなるかをBlenderがシミュレーションしてくれるのだ。
布の厚みや重さはもちろん、重力の強さなどもユーザーが指定できる。また、水面を揺らした時の揺れ具合、積み重ねた物体が衝突で飛び散る様子など、さまざまなものをシミュレートできる。ただし、布の様々な部分の動きを計算し尽くさなければならないので、この技術が登場したころはかなり高性能なコンピュータが必要だった。髪の毛や動物の毛の動きなども物理演算でなければとうてい表現できないものなので、最初の「トイ・ストーリー」は、ぬいぐるみではなく表面がつるつるのプラスチックのおもちゃが登場する話にしたのではないかと思っている。

その昔にCGをいじっていた頃、物理演算の登場には驚かされたものだ。当時はスーパーコンピュータなどの高速演算環境がなければ出来なかったので、自分には縁がないと思っていたが、Blenderと少々くたびれたPCでもできてしまった。感動的である。昔の自分に自慢したい。

さて、実際の作業の作業は、例えばこんな動画を見るとよくわかる。見てわかるとおり実に簡単な操作だ。長年敬遠していたことが実は簡単にできることがわかる。それもまた、今の時代のいいところだ。

2024年エウロパ・クリッパーの旅

2024年10月、NASAはフロリダ州のケネディ宇宙センターから木星の第2衛星「エウロパ」に向けて、探査機「エウロパ・クリッパー」を打ち上げる。この探査船には米国の詩人エイダ・リモン氏がエウロパに向けて書いた詩が、タンタルという金属のプレートに手書きの形で刻まれ、応募のあった人々の名前入りのマイクロチップとともに探査機の覆いの内側に納まる。この募集が昨年末まで行われ、私も駆け込みで参加した。

エウロパ・クリッパーは、地球から29億キロの旅を経て、2030年にエウロパに到着する。エウロパは月よりやや小さいサイズの氷で覆われた衛星。地球外での生命の探索に最適な場所の1つと考えられている、海洋世界が存在する衛星の1つだ。その周りを飛行し、氷の下の海に生命体が存在するか否かを調査する。その後2034年まで観測を続け、最期は同じ木星の衛星ガニメデに引き寄せられて衝突することになっている。

さて、そのガニメデだが、月などと同じく惑星の周囲を回る衛星としては、太陽系最大。水星よりも大きく、地下に大量の塩水があることなどから生命の存在も期待されていて、SF小説などでは、ガニメデ人が存在するというものもあった。もしそこに知的生命が存在するなら...探査船の衝突はテロである。
「大気も海も汚染されて、弱肉強食だの食物連鎖だのと未開な星だから放っておいたが、テロならただじゃおかないぞ」と報復に押し寄せるかもしれない。
「とりあえずこの名前の書いてあるヤツから血祭りだ!」

偶然私の名前が、ガニメデ人にとって最大の侮辱を意味してしまう、ということもあり得る