ウエスト・サイド・ストーリー(2021 米)

1961年公開の「ウエストサイド物語」のリメイク。またリメイクかと放置していたが、こちらはスピルバーグ作品と知って視聴した。スピルバーグといえばリメイクされる側で、今さら超名作のリメイクなど晩節を汚すリスクしかない。それを敢えて挑戦したところに、興味がわいたのである。

オープニングは古いビルの解体工事現場のドローン撮影なのだが、どう見ても「トゥナイト」の名シーンの舞台になった古い非常階段の鉄組みが、瓦礫と一緒に押し潰されて散らばっている。ちょっと驚いたが、これは一筋縄でいかない作品かも知れないと期待が高まる。
「物語」の名曲やダンスシーンはどうなるのか心配になったが、こちらは「物語」に忠実だった。ただし画面はドローンを駆使したダイナミックな演出が組み込まれているようだ。また、ミュージカル映画のダンスシーンといえば、ワンカットの長回しが見せ場だが、こちらもたっぷり見せてくれる。ただし現代の映画なので、テクノロジーを駆使した合成やつなぎ合わせが施されているのかもしれない。例えば書類の散らばる警察署の一室や、波止場の穴だらけの桟橋で激しく踊るシーンは、見ていてちょっと怖かったがCG合成だったのだろう。

主人公のトニーを見守る雑貨店主の老婦人が、非常に存在感があったのでチェックしたら、「物語」でアニタを演じてアカデミー助演女優賞に輝いたリタ・モレノだった。この人はその後トニー賞(ミュージカル)、グラミー賞(レコード)、エミー賞(テレビ)の、アメリカのエンターテインメント4大タイトルを獲得した「グランドスラム」である(※)。本作の撮影時は90歳近いはずだが、演技だけでなく製作総指揮も勤めている。

リメイク映画には安直なものも多いが、本作は原作の良さを次の時代に引き渡すための、いわば美術品修復のような仕事だと感じた。上映時間はどちらもぴったり同じ、2時間 36分である。歌のほか多くのシーンで「物語」が踏襲されているが、それだけにスピルバーグがどういう変更が必要だと考えたのか興味深い。時間があれば、「物語」とシーンごとの比較をしてみたいものだ。

※アメリカ・エンターテインメント4大タイトル(EGOT)獲得者は、リチャード・ロジャース、オードリー・ヘプバーン、メル・ブルックス、ウーピー・ゴールドバーグなど、16人のみ。