シンプル イズ ベスト

その昔、工業デザインや広告デザインの分野で、しきりにシンプル・イズ・ベストということが言われた時代があった。過剰な装飾や凝った意匠は前時代的であり田舎臭く垢抜けていない。それに対して機能性だけから生まれたデザインは、理知的で都会的である、とされた。それ自体バウハウスなどの考え方を受け継ぐ根拠のある考え方で、形状もカラーも一切の装飾性を削り取ったアップル社製品などが、その真骨頂である。

だがシンプル・イズ・ベストは、多分に企業側の都合によるものでもある。原価や製造時間が圧縮でき、バリエーションも少なくて済む。原材料、部品、製造技術の使い回しもしやすい。また、消費者に本来のシンプルさの価値が理解されているわけでもないようで、やたらと凝ったデスクトップ画像を設置したり、操作の邪魔になるほどストラップをぶら下げ、しまいに動物の耳のついたケースでくるんでしまう。要は多くの人にとってシンプルなことが面白いわけではなく、装飾があったほうが楽しいのである。

そのせいか近年グラフィックやパッケージのデザインで、日本的の伝統的な装飾を盛り込んだ作品が増えてきたように思う。世界的に見ても、各国の伝統的な装飾を現代感覚で蘇らせた作品が注目されている。さしずめ長年の「シンプル・イズ・ベスト」の呪縛から解き放たれたかのようだ。
最近は知的財産の取り扱いには注意を要する。企業ロゴなどはシンプルさを追求すれば、どうしても似てしまうだろうし、AIが加われば今後さらに類似品が氾濫することになるだろう。そんな中で、手間とスキルとアイデアを盛り込んで他と差別化できる装飾性の高いデザインが注目されるのは、無理がないかもしれない。

当社が誇る「ザ・シンプル」シリーズ。ストールからゴミ箱、サイコロ、角砂糖まで、暮らしに欠かせないあらゆるアイテムに極限までのシンプルさを追求しました。

2 thoughts on “シンプル イズ ベスト

  • 10月 9, 2023 at 05:18
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    シンプルisベスト、一時の流行語でしたね。考えてみれば昔の暮らしの中では手の混んだ造りの物が重宝されていました。家庭の調度品から家屋の装飾物。今では見直されている古民家をリノベーションとかで再利用さえしています。透かし彫りの欄間や雪見障子や囲炉裏など数えきれない程の手の混んだ造りでした。その陰には多くの職人の手が掛けられていた訳ですから近代化とともに職も失う事でシンプル化も進んでしまいました。私は半世紀前には手描きでイラストを描くテキスタイル・デザインをしていましたが、果して現在はどう変わったのでしょう?。親戚の北陸に住む叉従弟は宮大工ですが、何と北海道迄長期間泊まり込みで仕事をしたそうです。これも専門の職人が少なくなった証拠でしょうね。機械化は歓迎ですが、機械に覚え込ませる元は人間ですから、優れた技術は大切に残して貰いたいです。

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    • 10月 9, 2023 at 09:30
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      我々世代が一番伝統文化から縁遠いかもしれません。男は紋付き、袴を持ってなければ一人前じゃない、というような文化を無くしたのは我々ですからね。若い人は案外伝統的なセンスを受け継いでいるようです。卒業式、成人式の袴は定番みたいですから。ゲームなどのおかげだと思いますが、戦国大名の家臣の名前まで知ってたりします。動画サイトでは、外国人の大工が日本の木組みを使っていたり、日本の鎧兜を作っていたりします。それもなんちゃってジャパネスクなものではなく、小札を威でつないで作る本格的なものです。身近から消えても、なかなか消滅しないのが文化の強さですね。

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