Sweet Georgia Brown

Ben Bernie(1891 – 1943)の作曲。

パブリック・ドメインになる曲はどれも古いので、聞いたことはあるが曲名と一致しないものが多い。この曲もそうだ。また、自分が知らない曲は紹介しない、現代人にもなじみやすい新しいアレンジのものを選ぶなど、自分なりのルールを作ったものだから、だんだん候補が少なくなってきた。

今回の動画は、CHAD LBというサックスプレイヤーで、いろいろな相手とネットでセッションしたものをアップしている。動画の相手は「USジャズ大使」。これは特定のグループではなく、アメリカ国務省が世界各国へ音楽で交流を図るために派遣するチームで、これまでもルイ・アームストロングなど有名ジャズメンが参加している。今は陸軍のバンドのメンバーがその役目を担っているようだ。

コロナ騒動以降、ネットセッションの動画が公開されているが、実はそれらはリアルタイムではないそうだ。zoomなどを使えばネットを介した会議を開くことはできるが、これは会話だから可能なのであって、どうしてもタイムラグがあるせいで、音楽どころかジャンケンもできないらしい。だからネット上に公開されているものは、事前にテンポなどを綿密に打ち合わせてバラバラに収録した動画を、編集で合成しているものらしい。
そんなふうにネタばらしされてしまうとちょっと興ざめだが、この春、YAMAHAがリアルタイムでネット・セッションができるシステムを発表したらしい。流石である。

その昔、私はハリウッドで活躍するCGアーチストのネットセミナーを受講していた。動画時代の前だったので指導はメール中心だった。そのころには音楽関係でネットで受講できる機会はなかったと思う。今はネット上に有名プレイヤーや実力派の指導者から、直接指導を受けるチャンスがゴロゴロしている。その上一緒にセッションできるようにもなるというのだから、今楽器を始める若い人は幸せである。

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Beautiful Dreamer

スティーブン・フォスター(1826-1864)の曲。「草競馬」「ケンタッキーの我が家」など、音楽の教科書などにも登場する、アメリカ音楽の父とも呼ばれる作曲家である。

「Beautiful Dreamer」は、日本でも「夢路より」の名前で知られていて、誰もが一度は聞いたことのある曲だ。中学生の頃、この曲が8分の9拍子という変わった拍子の曲だと知り、余った1拍子はどうなってるんだろう、その割にスムーズに聞こえるが、と不思議に思った覚えがある。

フォスターの生きた時代は日本の幕末にあたり、作曲家という職業も、版権という概念もなかったため、ヒット作を発表しながらも生活は苦しいまま、38歳で亡くなっている。フォスター以後、レコードが一般的になる前の時代は、作曲家が新曲を発表すると出版社が楽譜を印刷して全国に販売した。クラブやダンスホールなどでは、バンドがこれを購入し、最新ヒット曲として演奏した。音楽業界とは出版社のことであり、作曲家はスターだった。今でもその名残は残っていて、新しい曲が「新譜=新しい楽譜」と呼ばれることもある。フォスターは、もう少し長く生きていれば、業績にふさわしいセレブ生活ができたかもしれない。それを思うと、パブリック・ドメインばかり持ち上げるのは、やや気が引けるが。

誰でも知っている名曲で、現代でも違和感のない美しいメロディなので、さぞかし多くのジャズメンが取り上げているかと思ったが、不思議なほどジャズアレンジの動画が少なかった。あっても原曲の8分の9拍子ではなく、ディキシーランドスタイルの4拍子のものばかりだった。有名だがあまりに古くて童謡っぽく思われているのか、それとも「主人は冷たい土の中に」「オールド・ブラック・ジョー」など、黒人奴隷をテーマにした曲を作っていたからかもしれない。

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ポル・ウナ・カベサ

カルロス・ガルデル(Carlos Gardel, 1890 – 1935)の曲。ただし動画では冒頭の2分少々だけで、その後「ビヨンド・ザ・シー」「韃靼人の踊り」「How Insensitive」と続く。ストリート・ミュージックの雰囲気が良かったので、あえて選んでみた。

タンゴは1880年代のアルゼンチンで、ダンス音楽として生まれた。当時、タンゴの歌はダンスの添え物的な扱いだったが、カルロス・ガルデルが登場して美声と表現力で一斉を風靡し、歌をタンゴの主役の地位に高めた。
作曲家としても「ポル・ウナ・カベサ」を始め、数々の名曲を残したが、絶頂期の44歳で飛行機事故で亡くなった。そのドラマチックな最期もあって、アルゼンチンでは今なおタンゴの偶像、国民の英雄として知られている。

アルゼンチンは先進国から途上国に凋落した唯一の国として、経済学の研究対象として注目されている国だ。19世紀後半から20世紀初頭にかけての加速度的な経済発展により、一人当たり国民所得が世界10位にランクされ、首都ブエノスアイレスは南米のパリと言われていた。
その後クーデターによる軍事政権の誕生、経済政策の失敗、政府支出の増大などにより、超インフレのあげく8度のデフォルト(債務不履行)を経験。2020年にも、9度目のデフォルトに陥っている。カルロス・ガルデスの死は、衰退が始まっていたアルゼンチンの国民に、とりわけ悲壮な思いを抱かせたに違いない。

演奏者のROM DRACULAS氏は、フィレンツェのストリート・ミュージシャンらしい。詳細は不明だが、youtubeによく登場している。もともとバイオリンがクラシックだけでなく、民族音楽やジプシージャズの楽器として、街頭や酒場で演奏されていたころの雰囲気が伝わってくるようだ。

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