以前にも登場した、コール・ポーター(1891-1964)の作曲。演奏は、これが本コーナー初めての登場となる、オスカー・ピーターソンである。スウィングやラグタイム時代のピアノを思わせる、明るくて、切れ目なく沢山の音を紡ぎ出すテクニカルな演奏で、日本でも人気が高い。ジャズ界きっての超絶技巧派、88鍵をすべて使い切りミスタッチのない完璧な演奏など、この人の評価はテクニックにかかわるものが多いが、私はむしろ気取りのなさやリラックス感など、カナダ人らしい人柄の良さを感じる。82年に脳梗塞で倒れた後、リハビリで復帰。07年に82歳でなくなってる。このあたりの経緯はよく知らなかった。来日回数も多く、アルバムと印象が変わらない安定したステージを見せてくれる人だった。
パブリック・ドメイン名曲集
Someday My Prince Will Come. (いつか王子様が)
フランク・チャーチル(1901-1942)が作曲した、ディズニー映画「白雪姫」の主題歌。この曲を取り上げているジャズメンといえば、やはりビル・エヴァンスだろうということで。特に日本人に人気のピアニストだが、ここに登場するのは初めてだった。ベースがエディ・ゴメス、ドラムがマーティ・モレルという、ビル・エヴァンス・トリオとして、一番長く活動したメンバーである。近年新しい音源が発見されるのも、このメンバーのものが多いそうだ。いつの、どういう場所での演奏かはわからないが、アルバムテイクではないような気がする。そのへんは聴き込んだ人にはすぐわかるのだろうが。
古い時代のものとはいえ、こうしてフィルムが残ってさえいれば、youtubeで見ることができる。当然演奏活動はレコードだけではないのだが、昔はそれくらいしか接する機会がなかった。今ならプレイヤーによっては、アルバムに収録されている以上の数の、それまで知らなかった演奏に触れることができる。全くありがたい時代になったものだと思う。
When You Wish Upon a Star(星に願いを)
リー・ハーライン(1907-1969)による、ディズニー映画「ピノキオ」の主題歌。ピノキオというより、ディズニー映画、ディズニーランドそのもののテーマと言っていいだろう。誰でも一度は聞いたことのある名曲だ。今までバブリック・ドメインのを名曲を何度か紹介してきたが、作曲者のハーラインの没年で分かる通り、この曲は作曲者の死後50年を経ていないので、まだパブリック・ドメインではない。来年、2019年にそうなる予定だったのだが。
先日、参議院は著作権の権利保持期間を50年から70年に延長する法案を通過させ、年内にも施行される見通しとなった。著作権期限の延長はTPPの重要項目だったが、アメリカがTPPから離脱してしまった。急ぐこともない案件だったはずなのに、今頃急に改定したのが不思議だったのだが、この曲に気づいて「ああ、これか」と思った。
ハリウッドを代表するディズニーの顔とも言えるこの曲が、日本だけとは言え永遠に権利が消失してしまう。その損失は金銭だけではすまないだろう。日本としては、空母まで出してもらった借りもある。何より戦後、「コンバット」や「ローハイド」など、無数のコンテンツを無償で提供してもらっている。その中にはもちろんディズニー作品もあり、我々もそれを見て育ってきた。もともと彼らが努力して価値を高めてきたものを、保護してきたのだからなかなか紳士的と言えるかもしれない。
実はこの曲は、来年紹介しようとチェックしてあった曲だった。こういう名曲はパブリック・ドメインになって人類の共有財産になってほしい気持ちもあるが、ミッキーの顔を立てて、21年後まで長生きすることにした。
動画はキース・ジャレット(P)の演奏。ドラムはジャック・ディジョネット、ベースはゲイリー・ピーコックである。いきなり三拍子のイントロが始まったので違う曲かと思ったが、6/8にアレンジした演奏である。