弱点は無視すると克服できる

一人で楽器を練習していて難所で間違うと、ちょっと悔しくてその場でやり直したくなるが、間違った箇所を何度も繰り返し練習してはいけないらしい。「エラーを学習してしまう」からだという。その説明に説得力をあったので、最近は伴奏音源を流しながら、失敗してもそのまま先を弾いてしまうことにしていた。すると、確かにそのほうが成果があるようなのだ。

例えば1曲の中になんとか弾けるAとCの箇所と、どうしても引っかかるBの箇所があったとする。Bの部分に戻って何度もやり直すと、その部分だけ弾けるようになったつもりでも、全体のパフォーマンスが下がって、最初から弾くとまた失敗するだけでなく、ちゃんと出来てた後半まで調子を悪くしてしまう。
これを間違っても気にせず、そのまま伴奏に合わせて弾ききるようにすると、戻ってやり直すよりも、B箇所を弾く時間が減ってるはずなのに、だんだん間違わなくなるのだ。

うまく弾けているつもりのAやCの箇所も、決して完璧なわけではない。Bの箇所の失敗と比べても、実は大同小異の出来であり、改善の余地はある。失敗に構わず弾ききるようにすると、AやCの箇所は練習した分さらに良くなっていく。すると、引き上げられるように、弱点だったBも自然に上達してしまうのだ。
通して弾くやり方だと、AやCがさらに上達して慣れや余裕が生まれ、その分Bに集中できるのかもしれない。もしかしたら、問題箇所に差し掛かるときに感じる緊張は集中ではなく、ただの軽いパニックで、A、Cに出来た余裕のおかげで、Bに集中して取り組むことができるようになっただけかもしれない。他のいろいろな問題解決にも通じるコツがわかったような気がする。

30タイプのフィドル演奏スタイル

フィドルとはバイオリンのこと。この2つは全く同じ楽器だが、カントリーなどのPOPSや民族音楽で使うときはフィドルと呼ぶ。バイオリンはクラシック音楽の楽器という印象が強いが、実はさまざまな国の民族音楽で使われていて、むしろクラシック以外の演奏者のほうが多いのではないかと思うほどだ。

民族音楽でのフィドルの演奏スタイルは、国が違ってもどことなく似ている気がしていたが、それを一堂に集めた動画があった。

早いテンポで絶え間なく音を出すスタイルは、ヨーロッパの民族音楽のほか、カントリーやブルーグラスなどのアメリカ音楽にも登場する。これは一見高度なテクニックのようだが、一度置いた左親指のポジションをその場から動かさず、4本の指で無理なく届く範囲の音を拾い続けるだけ。ビブラートもあまり使わないので、派手な割に慣れれば演奏しやすいかもしれない。
フィドルの軽快なリズムは、集まって手拍子を打ち、踊るのにぴったりだ。また、フィドル自体も非常に軽く、最初に我が家に届いたときも梱包込みなのに中身が入ってるのか心配になったほどだ。酒場でも屋外のダンス会場でも、どこでも気軽に持ち込んで観客の踊りのBGMを奏でたのだろう。そして人々がヨーロッパから新大陸に移民したときにも、軽いフィドルは他の楽器よりもたくさん持ち込まれ、故郷の音楽のスタイルとともに広まっていったのではないだろうか。

ところでこのプレイヤーのフィドルは、黒いフィンガーボードの上に、白い松ヤニの粉がついたままだ。こういうことをするのはクラシックのバイオリニストではなく、フィドラーである。だから私もそうしようとしばらく松ヤニをとらないでいたが、松ヤニの上にホコリが付着してひどいことになってしまった。外見だけマネしても、フィドラーにはなれないということだ。

私の練習曲/テネシー・ワルツ

バイオリンを買って、最初にやってみたいと思ったのがこの曲。また、古い曲なので民謡か、著作権が切れているものと思っていたら、しっかり期間中だったことで、パブリック・ドメインに関心を持ったきっかけにもなった。大抵の人が知ってる名曲で、未だにレパートリーにするプレイヤーも多い。ネット上にも、お手本にできる演奏が数多くあるので、自分の気に入ったスタイルを見つけることができる。何より三拍子なので、四拍子の曲に比べてすぐメロディの節目がくるので、演奏中に気を抜いたり、破綻を取り繕ったりできる。

今回取り上げたのは、イギリス人Chris Haigh氏の指導動画。典型的なカントリー調で、以前は難しくてできなかったダブルストップ(和音)の入れどころなどを勉強しようかと思っている。

この人のサイトfiddle stylesのページには、世界各地のフィドルの演奏スタイルが紹介されていて、研究ぶりがうかがわれる。中東音楽での演奏へのリンクもあるので、バイオリンがクラシックだけでなく、さまざまな民族音楽やポピュラー音楽の世界で愛されてきたことがよくわかる。